2000.12.2

 

  25. 追加2:アメリカのかくれた悩み
 

 

  アメリカでは日本を遥かに超える医療費を使っており、従ってその平均寿命も世界のトップレベルにあるとみんな思っているであろう。しかし実際は平均寿命は世界の10位以下でしかも10年位前からその伸びの鈍化が著しい。平均寿命がギリシャ、スペイン、イタリー並ということはその国の富の大きさから比較してとても考えられないがそれが現実である。多くの人がこれに気付かず、識者だけが憂いているという意味でこれがかくされた悩みと言える。アメリカの医療費はわが国の数倍に及んでいる。アメリカでは、はなばなしく臓器移植や冠動脈バイパス手術が行われ、また心カテーテルや腎透析も莫大な数にのぼるが、これらは直接長寿にはつながらないというのも一面の真理であろう。それならば医療費が無駄使いされて国民の健康と長寿に役立っていないというのであろうか。

 アメリカでは肥満と脂肪の取りすぎ(ハンガリーの場合と同様で全カロリー40%以上)が問題にされていることはよく知られている。これに対しL. A.セーガン博士はその著“諸国民の健康(1987)”においてもっと深刻な問題を提供している。すなわち離婚による片親のない子供達がふえ、また教育の低下から字は読めても本当に理解して日常生活や仕事に生かすことの出来ない実際的な文盲がふえている等々社会の歪が増大し、それが人々の健康に大きく影響していると訴えている。私達の接する大学教授や企業の経営者には肥えた人はいない。酒や煙草も節度を守っている。この人達は自分の健康を自ら守ろうとしている。しかし社会の歪に投げ出された人達は、そこにいろいろの誘惑があるとついそれに引き込まれて了う。これを防ぐ為には家庭や社会がしっかりと人々を守っていかねばならないとセーガン博士は説くのである。

 しかしアメリカにも朗報はある。それは1990年頃からがんの罹患率も死亡率も低下の傾向を示してきたことである。がん研究者はこれを大いに誇りにして、これをがん研究の成果として今後一層の研究費の増額を期待している。しかしこの低下の一番大きい原因は喫煙率の低下であろうと考えられていて、予防、治療の向上は僅かしか貢献していないようである。他方化学癌予防の研究が盛んに行われているが、予想に反してこれがなかなか難しく、βカロチンのように10年を費やしてヒトでの研究を行ったが、かえって肺癌が増加するという結果になり研究を中止した例もある。

 こうして世界を廻ってみて、さてわが国はどうであろうか。この30余年で急速に世界一の長寿国になったが、そのよって立つところは何であろうか。その一端を沖縄の長寿の研究などで示したが、日本国内でこの状態が今後も続きうるであろうか、既に疑問が出されているような状況である。それでも、私達の老化学はこれらの問題の解明を通じて世界に貢献したいものであると念願している。

[←前項目へ] [UP↑]