2000.11.1

 

  24. 追加1: ハンガリーで何が起こっているのか
 

 

  わが国の平均寿命が1960年頃からぐんぐん伸びて今や世界一になっているが、世界のほかの国でも程度の違いこそあれ、平均寿命は伸びつつあるというのが一般の常識であろう。ところがこれには例外があって伸びないどころか、少し短くなっている(最大ハンガリーで1960年〜80年の間に3.5年短縮)のがこのハンガリーに代表される旧東欧圏の国々である。ことにハンガリーは早く工業化が進み、共産党崩壊後にも一番スムースに西側に同調出来た優等生である。ところが平均寿命や死亡率から見ると西側諸国より遥かに劣っている。

 これがその社会制度や経済状況によるのではないかということはすぐに考えられるが。次のいくつかのデータはそれを否定している。例えば男子成人死亡率は旧チェコで20、ハンガリーでは30%、東欧圏平均で28%であるが、同じ位の富のある国のそれは18〜21%で、中国では20%である。いやむしろ貧富の差こそが国民の健康状態に反映するという意見もあろう。ハンガリーでは上位20%の家計は全体の34%を占めるが、ヴェネヅエラでは50%と貧富の差が著しい。しかし前者では死亡率が増えたが、後者では減っていてこれは当てはまらない。

 この短寿命は何によるのか、それは45〜64才の男性の循環器疾患とがん死亡率の増加である。女性にもその傾向は見られるが、男性ほど著しくはない。それが医師の数や病院の不足の為かというと決してそうではない。西側の1,000人当たりの医師数と病院ベット数が夫々2.5と8であるのに対し、旧東欧圏ではそれが夫々4.7と11とである。結局これは喫煙、飲酒、肥満など所謂ライフスタイルによるというのが研究者の意見である。例えばハンガリーでは脂肪を総カロリーの43%もとっているとの報告がある。これが心血管疾患にもがんにも大きく効き、それに煙草が追い打ちをかけているのかも知れない。ハンガリーは新生児の統計など世界のモデルになっているが、この異常な死亡率の増加の要因が分析され一日も早く対策が立てられることを祈って止まない。

 以上は1989年に発行された「すこやか長寿への道(家森幸男編、保健同人社)」にあるベルギー・リューベン大学のT.ストラッサー教授の記事によるものであるが、その後1990年代になって状況はどうなったであろうか。それを調べたくていつものように手元にある「国民衛生の動向」の最近のものを調べてみた。残念ながらそこには国際比較としてハンガリーを含んだものは年齢訂正死亡率ではなく死亡率そのものしかない。これでは日本のように人口の高齢化の進んで売るところではその影響が大きく出るおそれがある。一番新しいもので、1994年の統計が同じ年度の比較ができる。それによると全死亡率は日本で706.0に対してハンガリーのそれは1431.5とヨーロッパ諸国の中で一番大きい。しかし、がんと心筋梗塞の死亡率を上の論文にある時代の1978年のものと1994年のものを比較すると、ハンガリーでは1978年にそれぞれ252.0と272.3であったものが1994年では310.7と126.9となり、がんが増えて、心筋梗塞は減っている。同じ事を日本についてみると、1978年に121.3と39.8であったものが、196.4と96.7と何れも増えている。これには人口の高齢化が効いているとしてもどうも問題がありそうである。なお余談ながら、同じ資料を見ていて自殺の国際比較があり、その中で日欧米のなかでハンガリーのそれが飛び抜けて大きいことに気がついた。すなわち日本17.8,アメリカ12.0,ドイツ15.6,等に対してハンガリー35.3(何れも人口10万対)であった。日本の高さもいささか気になるがハンガリーのこれは何によるのだろうか。

 残念ながら今回は国際比較の重要性を指摘する問題提起に終わった。

 

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