1999.9.1
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2. 老化をどのようにして研究するのか | ||
かつては老化研究は泥沼に入るようなものだという意見が少なくなかった、そのことをもう少し考えてみよう。今の日本では癌は死因の第一位であるというので多額の研究費がつぎ込まれている。それでも癌はなかなか難物で、とても簡単に制御出来そうにない。また話題のエイズも同様の状態にある。しかし、研究者の立場から言えば、そこに癌という病気があり、エイズという病気がある。そして夫々異常ながん細胞やHIVウィルスといった実体がそこにある。すなわち明瞭な研究対象がそこにある。 これに比べて老化研究の場合はどうであろうか。人々はみんな年をとってくると老化するのだからそれを研究すればよいのではないかと考えられるかも知れない。しかし人々は年をとるといろいろの病気にもかかることが多く所謂生活習慣病と言われるもので、それと自然の老化とが入り混じったものが実体である。とすれば、どうすればこの病気と老化とを区別して老化だけを研究の対象にすることが出来るだろうか。このように研究の対象がつかまえどころのないというのが研究者の悩みである。 ここへ一石を投じたのが放射線である。アメリカでは第二次世界大戦中に原子爆弾を開発したが、その時に平行して放射線の生体影響を調べる大規模な研究が行われた。そのなかから浮かび上がったものの一つに放射線による寿命短縮という現象がある。放射線を受けたあと一見何でもないように見えた動物の寿命が短くなっているということである。寿命と老化との関係はいづれ詳しく論じるとして、この現象の発見は老化研究者に大きな助けになった。若しこれが放射線によって老化が促進された結果だとすれば研究者は初めて老化を人工的に左右する手段を入手したことになり、老化研究は急速に進むだろう。放射線以外にも老化を左右するものが次々と見つかるかも知れない。1960年代はこのことで老化研究に火がつき、著者もその中の一人であったが、研究が進むと共に、実は放射線による寿命の短縮は放射線によってがんが増えるためであって老化とは直接関係がないということが明らかになり一同大いに落胆した。しかし、このことは老化を科学的に研究しようという気運を大いにたかめ、また放射線との関係についても最近の研究の結果、大線量の放射線を受けるとがん以外の死亡率も上昇する可能性が示された。 また、我が国でも1978年から老化指標の研究ということで年齢と共に変化する生理機能について広範な研究が行われ、老化と共にどの様な機能が変化するかが解明されてきた。それによると、老化と共に多くの機能が低下するが、その中に多くの人で一様に低下するもの、例えば平衡機能など、と低下の個人差の大きいもの、例えば脳機能など、があることが明らかになってきた。こうして今では老化も立派に研究対象になることが認められている。
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