2000.4.1

 

  17. 自然環境と寿命
 

 

 今やマイカーの時代であるから自動車の寿命と生物の寿命の仕組みを比較しながら考えることにする。自動車も車庫に入れずに野晒しにし日々の手入れをしなければ早く傷んでしまう。生物にとっても、このように放置すれば傷つけるようなものが何かあるのだろうか。実はわれわれが自然の環境と思っているものの中にそれがある。生命が地球上に誕生した頃地球には今より数千倍も強い太陽紫外線がふりそそいでいた。生物はこれに対して生きのびなければならなかった。やがて地球大気中に酸素が出現し、それからオゾンが作られその層が太陽紫外線を吸収しそれの生物への危険はやわらいだ。しかし今度は酸素は原始細胞にとっては猛毒で、やがて酸素耐性が獲得され、その中から人類も誕生した。また太陽は今も核融合を続けながら我々に陽光を注いでいるが、地球もこのよう核反応をへているので出来た時から沢山の放射性物質を含んでおり、それが段々と弱りながら今でも私達の環境には沢山の自然放射線がある。

 生物の寿命がのびるほどこれらの自然環境の障害にさらされる期間が長くなる。反対に言えば寿命の長い生物ほどこれらの害に対する対応が十分出来ていなければならない。

 紫外線は生命の基本である遺伝子DNAに傷をつけることが知られているが、生物はこの傷を修復する能力をそなえていることが分かってきた。ネズミから寿命の長いゾウ、ヒトなど種々の哺乳類について調べると、一、二の例外はあるが、この修復能力と最高寿命とがほぼ比例している。酸素は生体成分をもやしてエネルギーを作るのに必要で、これによって多くの生物が進化してきたが、この過程でしばしば極めて有害な活性酸素(スーパーオキサイド)が作られる。多くの生物はこれを瞬時に無害化するための酸素系をそなえている。消費エネルギーに対してこの酸素系の強力なものほど寿命が長いということが種々の動物の比較で示されている。

 それでは放射線(X線やγ線などの電離放射線)に対してはどうであろうか。この放射線もDNAに傷をつけるが、この傷は紫外線のものと異なるが、これに対しても強力な修復機能がそなわっている。しかし生物の寿命との関係は未だ明らかではない。これらの害作用のうち酸素の害に対してはこれを無害かするのは自然の酸素系のほかに、ビタミンCやEなどにも同様の効果があり、また食べ物の成分にもこの抗酸化作用の強い物がある。これらをうまく体内に取り込めばこれが酸素の害を減らして老化防止に役立つという一つの可能性が考えられている。

 抗酸化作用の強い食品や成分をとることで老化が防げるという記事が新聞や雑誌にしばしば見られるが話はそれ程単純ではなさそうである。アメリカの国立がん研究所が中心になってビタミンAの前駆体であって野菜などに多く含まれているベータカロチンの肺がん予防効果が10年余にわたって行われた。しかしその結果は予想に反してベータカロチンの摂取は却って肺がんを増やすということになった。これはがん予防に有効と考えられている黄緑野菜に多く含まれおり、また抗酸化作用もあるので、予防効果を期待したのに意外な結果であった。この矛盾を解決しなければ、どんな抗酸化剤が有効で、どんなものはかえって有害なのか言えないのではなかろうか。

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