2007.3.1

 
 
科学の前線散策
 
 
3. すばらしい可能性を秘めた抗癌剤だが、一体何処が製品化するか

菅 原  努


 

 

 カナダのアルバート大学の Evangelos Michelakisがdichloroacetate (DCA) という小さな分子がすばらしい制がん性を示すことを見出して昨年の Cancer Cells という雑誌(電子版)に発表しました。さらに大切なことはその作用機構です。1930年に Otto Warburg ががん細胞は酸素を使わずにグルコーズを直接エネルギー源にしていて、乳酸を蓄積する、これががん細胞の特徴であると言う有名な説を発表しました。その後、これに対して、これはがんの原因ではなく、がんはそれが酸素欠乏状態にある結果として仕方なくそうなるのだという批判がありました。しかし、今度の Michelakis の結果は、これこそががん細胞の本質だということを示しています。

 このDCAという化合物は、いままでミトコンドリア賦活剤として使われてきたものです。これでがん細胞のなかで本来活性の抑えられていたミトコンドリアを活性化すると、細胞はアポトーシス(自殺死)を起して死んでしまうと言うのです。逆に言うとがん細胞ではミトコンドリアはその活性が抑えられていて、それで何時までも分裂を続けることが出来、不死になっていたと考えられるというわけです。

 DCAは既に薬剤としては認められていますから、これをがんに使うには、抗癌剤としての効果さえ証明して、その許可をとればよいわけです。しかし、安い薬で、しかも特許もないものに、効果をしめすための高額の臨床治験を誰が引き受けるのでしょうか。またお医者さんも儲からない安い薬を喜んで使ってくれるでしょうか。このDCAの発見は、医学への新しい貢献の可能性を秘めていますが、実際にどのように活用されるようになるか、いろんな面から注目していきたいと思います。

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