2001.7.3
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7. 太陽紫外線をめぐって |
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古いことですので、少し記録をたどってみましょう。1991年に発行された太陽紫外線防御研究委員会学術報告第1巻第1号の緒言は次の言葉で始まります。「昭和64年(1989)12月4日に14名の有志のみでもたれた太陽紫外線防護研究委員会設立に関する話し合いの結果、平成2年(1990)1月31日、東京資生堂パーラーでもたれた、大学側世話人7名、発起人としての企業9社とによる世話人会を経て、太陽紫外線防御研究委員会が正式に発足することになった。」そして第1回のシンポジュウムがその年の暮れ12月13日に東京で開かれたのです。 この会はその後次第に発展し今年は3月に名古屋で第11回シンポジュウムを開催しました。また第5回の神戸での開催の時から、翌日に一般向けの公開セミナーすることになりました。その初めての公開セミナーで、「今日の講演では太陽紫外線は避けるようにとのことですが、学校では先生がプールのまわりでもっと日に焼けと教育されますが、どちらが正しいのでしょうか」という質問が出てハッとしたことを憶えています。それから見るとはじめにご紹介して新聞記事など大した変わりようです。ここまで発展したので、私も80歳を機に初めから続けてきた委員長の任から下ろさせて頂くことになりました。では何故私が太陽紫外線の問題にこんなに力を入れてきたか、それはこの会を始めた時の私の挨拶に記録から汲み取って頂きたいと思います。それを次に引用します。 “(前略)ご承知のように太陽というものは我々にとって欠かせないものであります。それによって地上に生物が育ちこの地球が現在の潤いのある環境をつくっているわけでありますが、すべて良いことばかりではありません。ことにその中に含まれている紫外線にはいろいろ人間にとっても害をおよぼすようなこともあります。この問題は特定の人だけの関係している問題ということではなくて、我々全てのものがその恩恵とともに害も受けることになります。このような意味でこの問題はみんなで一緒に考えなければならないものと私達は考えたわけであります。最近では新聞などに、オゾンホールが出来てそのために紫外線が南極やそれから北半球にもだんだんふえてくるというような事が出てまいります。そうしますと、新聞やその他に「オゾンホールがどれくらいできるとこれから皮膚がんが何%増えるというような記事がよく載ります。それは色々な学者が書いておられるから一般の国民はそんなものかそれは大変怖いと思うでしょう。私も勿論その方面の専門家ではございませんが、一体その数字がどのようにして出てきたのか非常に疑問をもつことがあるわけであります。それでこういう数字が独り歩きするという事はどこに問題があるのだろうということです。実は私の本来の専門は放射線生物学といいまして、放射線が人体にどうゆう影響を及ぼすかということをずーっと研究してまいりました。その時に、いつも問題になるのは、やはりこれと同じ事が起こるわけです。放射線が当りますと人間にどういう事が起こるかという事をいろんな場で議論されるわけですけれども科学者が思い思いの事を述べます。その根拠も非常に詳しく調べたものもあれば、非常に簡単なデータから、或いは人のデータをちょっと拝借して話をする、そういう様な事もしばしばあるわけです。そうしますと国民が迷ってしまいまして、一体どれが本当だということになるわけです。この紫外線の場合にそういう事があっては大変困ります。しかもこれはみんなが避けて通れない問題ですから、こういう事に対しまして国民としては安心してこの問題はこういう風に考えたらよろしい、そしてその危険はこういう風に避ければよろしい、そういうことを皆ではっきりさせる必要があるのではないかと考えたわけであります。そういう事を私達自身も放射線生物学をやっておりまして深く反省しておりますので、いよいよこういう太陽紫外線の防御を考えると言うときには、個々の研究者が普通の学会のように、私はこう思います、この研究結果ではこうです、というような狭い見方ではなくて、学者、それは大学にいようと企業にいようとそういうことには関係なく、みんなが力を合わせてその成果をまとめて実際の姿を社会に知らせる。国民の皆さんにお示しするという、そういうことをやっていく責任があるのではないかと考えます。(以下略)” このようなことで普通の研究会ではなく研究委員会というのをはじめたのですが、初めに書いた新聞記事を見て、よくここまで来たかと感慨を持った私の気持ちがご理解いただけることと思います。しかし未だ問題はあるのです。本当に害を及ぼすのは紫外線のどの部分であり、それが定量的にどのようになっているのか、皮膚がんやその前がん状態の実態はどうか、などなど、科学的には解明するべきことが沢山あります。またこの紫外線による皮膚がんと放射線による悪性腫瘍とを比較することから発がん機構についていろいろと示唆が得られる可能性が考えられます。これからはこのような専門的なところにもっと力を入れたいと思いますが、書き出すときりがないので、今回はこのあたりで筆を置くことにします。
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