2002.1.1

 

 

13. 歩く楽しみと効用

 

 

 新しい年の初めに私が昨年の秋から実行して楽しみと効用を認めた“歩く”ことについて自分の経験を話してみたいと思います。というのはこれこそ誰にでも出来、それなりの意味があるとおもってお勧めしたいからです。

 歩くなどということは、何処でも言われているし、今更言われなくても分かっていると思われるかも知れません。私も同じことでした。しかしこの数ヶ月実行してみて、つくづくと感じことをお話にてみたいのです。

 私の家をでてオフィスへ行くには、家のある山科から東山を越えて西へ行き、東山三条というところからバスで北へ向かい百万遍で降ります。問題はこの最初の西向きの峠(九条山)越えをバスでするか、地下鉄でするかなのです。地下鉄が出来てから駅まで歩くと20分ほどかかるようになりました。バスは一時間に一本しかありませんが、バス停までだと7、8分で行けます。そこで毎朝決まったバスに乗るという通勤を長年続けてきたのです。ところがそのバスが九月頃から20分、30分と大きく遅れるようになりました。その原因は九条山越えの道の改装工事が始まった為なのです。

 丁度その頃日本基礎老化学会から名誉会員である私のところに秋に行われる公開シンポジュウムの抄録集が送られてきました。それをパラパラと見ていると、その中の信州大学の野瀬 博教授も書かれたなかにある次の文章が目にとまりました。

“下肢筋力の強い高齢者ほど最大歩行速度が高く、単位時間当たりの運動量が多いことを意味し、下肢筋力の強化が高齢者の持久性運動能をも決定することが明らかになった。したがって、もし各自が毎日のウオーキングの量を決めていたとすれば、最大歩行速度の減退はそのまま運動量の低下につながり、それは心循環機能への負担を軽減させ、その退行の原因となる。”

 私は歩行速度が遅くなり道で若い人にどんどんと抜かれるのを年相当で仕方がないと思っていたのですが、これを読んで考え直しました。よし私も早く歩くようにして少し鍛えてみようと。そこでバスに乗るのをやめて、同じ道を地下鉄駅まで往復を歩くことにしたのです。初めのうちは少し疲れましたが、段々と慣れてくると歩くのが楽しみで、次第に力もついてくるような気持ちになってきました。国道を徐行運転の車と平行して歩くことになりますが、途中に3つほど信号もあり、目をつけた車と抜きつ抜かれつ歩くのはなかなか張りがあって楽しいものです。「自動車と競争しながら歩く」と言ったら皆驚いて、「そんな馬鹿な」と言うのですが、「いや、渋滞で徐行運転している車とですよ」というと「あ、そうか」と大笑いになります。これで毎日往復で40分は歩くことになります。それに遅れるバスを待っていらいらすることもなくなりました。もう、途中でバスに抜かれてもくやしいと思わず、歩く方が大切と自分で満足しています。でも矢張り若い女性などには時々追い越されます。

 でも未だ問題があるのです。運動生理の専門家に言わせますと、筋肉を鍛えるのには二つの刺激が必要である、ということです。一つは勿論筋肉そのものに対する刺激ですが、もう一つは運動をすることで全身が刺激されて成長ホルモンなどの筋刺激が加わる必要があるという考えです。これによってはじめて高齢者でも筋力を強めることが出来ると言っています。私の歩いている程度ではとてもこの後の刺激までは及びません。私達の仲間には週に何回かトレニングセンターに通って自転車漕ぎで汗を流している人もいます。私はそこを頑固に歩くだけで頑張っているわけです。でも私自身にはこれでもそれなりの効果がありそうで、何だか秋から老化が止まったような気持ちがしています。それを実感しながらしばらくこの“歩く”を続けるつもりです。みなさんならどちらをとりますか。