2004.1.1
 
八十路のつぶやき
 
菅 原  努
  8. 初 夢
 


 あけましておめでとうございます。皆さんはどんな正月を迎えられましたか。この21世紀は、どうも不穏な空気の幕開けでしたが、お互いに相手を理解し、足るを知ることで、早く穏やかな世界になって欲しいものです。

 今年は甲申の年、私が医学部を卒業して60年、還暦になります。私達のクラス会は卒業の年のえとにちなんで、甲申会と称しています。今年はそれで卒業60周年を祝う祝賀会を持つべく計画中ですが、80歳も3、4歳となると一体何人集まれるかと、心配が先に立ちます。実は私自身も年末にひやりとすることがありました。12月の初めに少し忙しい日が続きました。ある朝目覚めると左手の薬指と中指とがしびれています。途端に家内が何年か前に左手がしびれると言ったのが脳梗塞の前兆だったことを思い出しました。丁度その日は病院受診の予約日でしたので、病院でそのことを訴えて神経内科に回していただきました。途中でしびれが拡がるように思えて心配しましたが、神経内科で脳は異常なく、末梢的なものと言われてほっと一息つきました。そこでこうして今まで通りこの記事が書けているということです。

 こうして私の年では何時大病に襲われるか、寿命が尽きるか分らず、そのためには静かにひっそりと暮らしたいと思う一方、折角生きている以上何か私に出来ることをしたい、という矛盾した気持でいます。いろんな計画はあるのですが、12月の経験にこりて、それに意見や案出すが、出来るだけ表には出ないようにしたいと思っています。ただ一つ言いたい事は、今の世の中人々は余りにも忙しく目先の事にとらわれてスケールの小さい事ばかりにこだわっているように思えます。先のない年寄りがと思われるでしょうが、年寄りこそ何事にも捉われずに自由に夢がみられる、と考えるのですが如何でしょうか。今年はそれをこの“つぶやき”のなかで、語ってみたいと思います。

 今心に抱くそのひそやかな夢とは、次の三つです。

 ハイパーサーミア(がん温熱療法)の更なる普及をはかる。昨年はそのために岩波アクテイブ新書「がん・免疫と温熱療法」を出しましたが、未だ期待した成果は見えてきません。今年は6月に国際会議を開いて世界的に科学者の温熱療法の意義について声明と提案をする予定です。これが少しでもがん患者さんの助けになればと祈っています。

 健やかな長寿にはよい食生活が欠かせませんが、そのための食の効能評価は医薬品のそれとは違うはずだと主張してきましたが、それを具体化する方向へ一歩でも進めたいのです。何処が違うか大いに夢をかきたてます。

 科学と社会とは今いろんな問題を抱えています。私たち老科学者にできることは、自分の学んできた科学の実際と夢と限界とを分かりやすく人々に語りかけることではないでしょうか。今はやりの言葉で言えば科学リテラシーをたかめることです。そのために新しい企画の本のシリーズを立ち上げて見たいと考えています。言い出したからには、先ず自分がと言うことで、環境リスクを中心に作ろうと企画しています。

 

 
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