2005.9.1
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菅 原 努
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28. 老人ホームの1週間 | ||||
避暑などと言っても、このホームは同じ京都で、ただ北の山の中にあるというだけです。それでもさすが全館冷房が効いて、部屋のエアコンを28℃に設定して運転を続けているだけで、館内何処へ行っても涼しいし、周りには緑の木々があり、ところどころ草花が咲いていて、さわやかな山の気分を味わう事が出来ました。家内はつい遥か昔に過ごした有馬の山荘と勘違いして「ここは有馬?」などと言い出す始末でした。同じ冷房をしても、木造で部屋があちこちにばらばらにある我が家ではとてもこうはいきません。 さて期待した3食付きということですが、勿論目標は食事のことだけではなく、老夫婦の最後は介護付き老人ホームで家族に世話を掛けないでおだやかに過ごす、という最近の常識に何処まで従えるかということだったのです。その点は慣れないところに戸惑う家内は勿論、私にとっても未だ直ぐに移り住もうということにはなりませんでした。我が家では夕食後の一時は別にして、あとは自分の書斎にこもって、読書や書き物と居眠りをマイペースでやれるのですが、ホームではアパート住まいのように一日中家内と顔を合わせその相手をしていなければなりません。それから逃れるべく持っていった翻訳の監修の仕事を始めたのですが、畳の部屋しか机がないので、そこで座ってやっていると、1時間もすると腰が痛んで立ち上がれなくなってしまいました。また耳の遠い私には読書だけが楽しみですが、それにもゆっくりと座る椅子がなくて困りました。 それよりも問題は、軽度認知障害のある家内が、ホームの新しい環境にうまく慣れてくれるかどうかです。初めての夜は夜中に懐中電灯を持ってトイレを探してうろうろするので、トイレから薄明かりが漏れるように工夫をしました。次ぎの晩には間違って非常ベルを押して介護の人が飛んでくるといったこともありました。また、最後まで別れ道のある廊下とエレベーターとをうまく通って独りで食堂へはとても行けない、と言っていました。でも、また秋に来ようという私の提案に反対をしなかったのが、せめてもの救いです。こうして新しい老後の過ごし方を試みて、その難しさを実感した1週間でした。 1週間ぶりの我が家の庭には、何時も遅く本当に咲くのだろうかと気にしていたさるすべりが満開の花を飾っていました。しかし、家内からは1週間も違った処にいたから、家の事が何も分らなくなった、とぼやかれもしました。
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