2003.2.1
2003年2月のトピックス 肺がん薬「イレッサ」の副作用 菅原 努 |
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昨年7月に認可になった新しい肺がん治療薬「イレッサ」については、その後10月頃から新聞などに副作用が予想以上に多く激しいということで問題視する記事が出始めました。昨年の10月27日に死者39人とあったのが、12月25日には副作用死が124人になっています。今年にはいって1月16日には「海外の副作用報告200例――厚労省、調査せず承認」といった記事が出て、非難が監督官庁に向うようになりました。1月18日にはとうとう「薬害根絶に逆行」という記事まで出るようになりました。そこで厚労省は、イレッサの投与は自宅でなく、最初は入院をして注意深く観察しながら始めるようにという指導を出したようです。 昨20日のNHKのクローズアップ現代でもこの問題を取り上げていました。最初進行した肺がんがこのイレッサによって奇跡的に治った患者さんを紹介し、次に反対に副作用であっという間に亡くなった患者さんの未亡人の言葉を聞かせました。そこでこれへの対策として、副作用としての間質性肺炎を早くみつければステロイド大量療法で治せること、イレッサの効く人を見出すためにDNA検査が研究されていることを紹介していました。 この問題は単に薬剤を承認した監督官庁の問題でしょうか。ことに副作用情報さえしっかりと集めればこんな副作用死は避けられたのでしょうか。アメリカでは委員会の強い勧めにも拘わらず厚労省に相当するFDAは未だ許可を出していません。この状況は何となくサリドマイドの時と似ていませんか。FDAはこの種の薬の持つ問題点に気付いて、待ったを掛けているのではないでしょうか。では一体どんな問題があるのでしょうか。 この薬は今までの制がん剤と違って新しい分子標的剤です。がん細胞にある異常な働きをしている分子を見つけそれを攻撃し、その働きを止めることでがんを治そうとしているのです。その意味では画期的なものです。我が国のがん治療研究もその重点が「EBMに基づいた分子標的薬開発」に置かれています。EBMというのは、Evidence-based Medicineの略で統計的な臨床試験で有効性を証明されたもの、ということです。Natureの2002年12月19/26日号にある解説記事からその部分を引用してみます。 “分子標的薬は21世紀の薬剤として非常に重要な位置を占める。すでにグリベック(ノバルテイス)やイレッサ(アストラゼネカ)といった分子標的薬が上市されている。いずれも異常なシグナル伝達を遮断してがん細胞の増殖を抑え、正常細胞への影響は少ないとされている。日本でも多くの企業が、EBMに基づく副作用の少ないがんの分子標的薬開発に乗り出している。” 同じような楽観的展望は日本癌学会の2001年9月のホームページにも見られます。 “EGFR tyrosine kinase阻害剤であるZD1839(イレッサのこと)EGFR tyrosine kinse阻害剤であるZD1839は、従来の抗がん剤療法に耐性化した非小細胞性肺がんにも20%前後の腫瘍縮小効果を示している。これらの薬剤に共通する特徴は、経口剤で長期内服が可能であり、その際の薬物有害反応は既存の抗がん剤よりも著しく軽いことである。これらの薬剤により、患者の中には長期にわたり腫瘍の制御が観察されている症例も存在している。 問題はこれらの研究開発に関与している人たちが、グリベックとイレッサの対象の違いを考えていないことにあると思います。グリベックは同じような分子標的剤ですが、対象は慢性骨髄性白血病で、このときは標的はbcr/ablという単一のものです。従って初期の白血病であれば96%もの効率で緩解が得られています。これでも病気が進むと60%位しか効かなくなります。それはbcr/abl以外の異常が加わるからだと考えられます。 この白血病に比べて肺がんはその分子機構が遥かに複雑であると考えられています。従って単一の標的を狙っただけでは奏効率は高くなく、またその標的がそのがんに特異的でなければ当然副作用も否定出来ません。欧米でも複雑な固形腫瘍を分子標的にするときの問題点が論じられています。大事なことは、副作用の管理も大切ですが、むしろこの方法の限界を考え、よりよい方法を検討することではないでしょうか。その一つとして私達は早くからがん温熱療法を提唱しているのです。
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