2002.1.1
 

2002年1月のトピックス

社会と共存できる科学技術を目指して

菅 原 努

 


 新年おめでとう御座います。この欄では新しい年の初めにあたって、抱負なり見通しなどを述べなかければならないところです。しかし、昨年の9月11日以来世の中は急に何もかもが変わってしまったように感じられ予測がつかなくなってしまいました。勿論私はテロを認めるものではありませんが、あのテロに対するアメリカの動き、それに対する日本政府の対応などの対するわが国での論調を見ていて特に感じることは、武力によっては解決しない、もっと話し合いをせよ、というもっともな批判的意見がだされていますが、では如何にしてどのような話し合いの場を持つのだということについて具体的な提案が全くないことです。ただ集まってさあ話合いなさいといってことが収まるとは誰も思っていないでしょう。では一体どうすればよいのですか。

 実は新しい科学技術と社会との間でこのことが既に問題になっているのです。例えば、放射性廃棄物の処分についても、遺伝子操作作物についても、専門家と一般市民との間に受け取り方の大きな違いがあり、あちこちで大きな問題になっています。そこで円卓会議を開いてみても余り進展はなく、またいきなり白黒を決める住民投票になって否定されたりしています。この民主主義の世の中で、多様な意見、価値観を持った人がいるという実情をふまえて如何にすれば、誰もが納得する結論を導くことが出来るのでしょうか。一体そんなことは可能なのでしょうか。

 欧米では既にこの問題の解決をはかるために、科学者だけではなく、社会科学者、心理学者、経済学者などを含めた新しい合意形成のための組織や会議のあり方についての検討が始まっています。例えば昨年(2001)の日本リスク学会での土屋智子、谷口武俊の報告によりますと、放射性廃棄物問題をめぐって、1990年代後半に
 英国での放射性廃棄物問題に関するコンセンサス会議
 英国核燃料公社のNational Stakeholder Dialog(利害関係者対話)
 ベルギー放射性廃棄物・核物質管理機関のローカルパートナーシップ
などが行われたそうです。これらの会議はその詳細をここで説明する余裕はありませんが、その名が示すように構成員、やり方が違い、それなりの工夫がこらされているようです。即ちこのような合意形成のやり方という新しい研究課題があり、それを広く学際的に展開する必要がさしせまっているということです。

 私達は数年前からこの問題を「市民とリスク」という題の勉強会を作って検討してきました。わが国でもすでに「遺伝子組替え農作物を考えるコンセンサス会議」が2000年に実施されています。私達も今年は勉強の成果を具体的に生かす方向に進みたいものです。