火災事故のリスク50年(10)
《「消防」に捧げられた尊い犠牲》
主任研究員 武田篤彦
1. 基礎データ
- 消防吏員と団員の「職員数」、「年間死亡者数」、「年間負傷者数」:
消防年報(1555年〜2002年)総務省消防局
- 火災による国民の罹災「死者数」「負傷者数」:
火災年報(1955年〜2002年)総務省消防局
- 人口:
1)1951年〜2001年:日本長期統計要覧
2) 2002年:日本の統計(平成15年版)
2. データの検討
- 消防吏員・団員の定数
発火源に果敢に立ち向かう専門職には2種類があり、各種の自動車と救急車で出動する最新装備の消防吏員(職員)と、背中に円く赤い文字が書かれた“刺子”の制服を着用して出動する非常勤の消防団員とに区別されます。
吏員と団員の定数は表1に示したように、この50年間に正反対の変化を示しました。吏員は5倍増、団員は半分に減少したのです。それに伴い、この間に吏員1人が担当する人口は3千人から800人に減じ手厚くなりましたが、団員については担当人口は50人から140人に増え、逆に手薄なことになりました。
- 消防吏員と団員および一般国民の死傷
1951年〜2001年における消防吏員、消防団員および吏員・団員を除く国民の3グループについて、火災による死傷の経年経過を、図に示しました。
吏員・団員の経年死亡は暦年による変動が観察されますが、表2にはそれを物語る5年ごとにまとめた死亡者数を示しました。団員には直接に人命救助を行なう責務は課せられていないと聞いていますが、現実には吏員同様に危険は小さいものではありません。
- 吏員・団員の火災死亡を一般国民と比較する
表3に、5年間隔でみた吏員、団員および「それ以外の一般国民」の、火災による年間死亡数を示しました。「それ以外の一般国民」には人口から吏員・団員の職員数を引いた数、死者数には「罹災者のうちの死者数」を用いました。
団員および吏員の死傷者数の経年変化は1960年代から小さく、そして1990年代からは横ばいになっています。それ以外の一般国民(=罹災者)の死傷傾向は、1960年代から緩やかな増加を示しています。吏員にみられる死傷者減少の理由としては、消防装備の刷新と充実、平均年齢の引き下げなどのほか、職員定数の大幅増員による作業負担の軽減をあげることができます。1960年代後半から1970年代半ばにかけての吏員の増員割合は2倍に達しています。
- 吏員、団員と一般国民の死亡状況の歴年経過
表3は、1956年から2001年まで5年間隔で計算した吏員、団員と、吏員・団員以外の3グループについて10万人あたりの死者数を示しています。吏員と団員では1971年以前の数値はそれ以後に比べて高く、とくに吏員については数字の大きさに驚かされます。同じ火災現場で行動する一般国民である“罹災者”について注目しますと、この期間を通じて10万人あたり0.7人から1.7人と微増傾向を示し、それは自ら火災に立ち向かうプロの人びとに比べて数倍程度であることが、わかります。
リスクに満ちた火災に立ち向かう消防従事者の労苦に、感謝しましょう。
表1 消防吏員数と消防団員数の暦年推移と人口との比較
暦年 |
吏員数(比率)
|
吏員1人に対応
する人口(比率)
|
団員数(比率)
|
団員1人に対応
する人口(比率)
|
1956 |
31,864( 1 )
|
2,830.0( 1 )
|
1,830,222( 1 )
|
49.3( 1 )
|
1961 |
38,489(1.21)
|
2449.7(0.87)
|
1,542,406(0.84)
|
61.1(1.24)
|
1966 |
50,806(1.59)
|
1,949.3(0.69)
|
1,301,702(0.71)
|
76.1(1.54)
|
1971 |
70,077(2.20)
|
1,514.0(0.53)
|
1,189,675(0.65)
|
89.2(1.81)
|
1976 |
107,632(3.38)
|
1,050.7(0.37)
|
1,105,299(0.60)
|
102.3(2.08)
|
1981 |
123,204(3.87)
|
957.0(0.34)
|
1,063,761(0.58)
|
110.8(2.25)
|
1986 |
129,610(4.07)
|
938.7(0.33)
|
1,026,224(0.56)
|
118.6(2.41)
|
1991 |
135,157(4.24)
|
918.2(0.32)
|
991,566(0.54)
|
125.2(2.54)
|
1996 |
148,989(4.68)
|
844.8(0.30)
|
972,078(0.53)
|
129.5(2.63)
|
2001 |
153,952(4.83)
|
826.8(0.29)
|
944,134(0.52)
|
134.8(2.73)
|
表 2 消防吏員と消防団員の火災による経年死者数と、その比較
暦 年
|
死亡者数
____________________
|
合計 |
吏員 |
団員 (合計の%) |
1956〜1960 |
163
|
40
|
123(75.5)
|
1961〜1965 |
119
|
61
|
58(48.7)
|
1966〜1970 |
85
|
34
|
51(60.0)
|
1971〜1975 |
49
|
33
|
16(32.7)
|
1976〜1980 |
32
|
21
|
11(34.4)
|
1981〜1985 |
25
|
8
|
17(68.0)
|
1986〜1990 |
13
|
5
|
8(61.5)
|
1991〜1995 |
22
|
10
|
12(54.5)
|
1996〜2000 |
11
|
6
|
5(45.5)
|
(合 計) |
519
|
218
|
301(58.0)
|
表3 消防吏員、消防団員および国民(吏員・団員を除く)の
火災による死者数の経年推移
暦 年
|
消防吏員
______________
|
消防団員
______________
|
吏員・団員を除く国民
__________________
|
死者数
|
10万人あたり
死者数
|
死者数
|
10万人あたり
死者数
|
人口
(×1000)
|
死者数
|
10万人あたり
死者数
|
1956 |
4
|
12.6
|
29
|
1.6
|
88,310
|
607
|
0.7
|
1961 |
14
|
36.4
|
13
|
0.8
|
92,707
|
779
|
0.8
|
1966 |
8
|
15.7
|
17
|
1.3
|
97,68
|
1,086
|
1.1
|
1971 |
2
|
30.0
|
5
|
0.4
|
104,840
|
1,457
|
1.4
|
1976 |
4
|
3.7
|
2
|
0.2
|
111,880
|
1,642
|
1.5
|
1981 |
0
|
0
|
3
|
0.3
|
116,838
|
1,968
|
1.7
|
1986 |
1
|
0.8
|
3
|
0.3
|
120,504
|
2,057
|
1.7
|
1991 |
0
|
0
|
4
|
0.4
|
122,916
|
1,813
|
1.5
|
1996 |
2
|
1.3
|
0
|
0
|
124,743
|
1,976
|
1.6
|
2001 |
1
|
0.6
|
1
|
1
|
126,193
|
2,193
|
1.7
|
|