原子力や医療、工業、食品などにおける放射線利用は、現代の私達の生活に深く関わってきており、それらが安全・適切に利用されれば多大な便益を与えてくれます。しかし他の科学技術と同様に、これらの放射線利用は特有のリスクを備えています。特にチェルノブイリや福島原子力発電所におけるような原子炉事故は、環境に漏出した放射性物質の放射線による被ばくと健康被害の可能性が問題になり、深刻な影響を社会におよぼす事になります。
リスクの考え方はもともと、放射線研究の分野で発達してきたものと言われています。ここではリスクは「統計的な手法で求められ確率として表されるものであること」と定義されています。放射線被ばくも含めた現在のマスコミ報道などでは、「リスク」の意味をきっちりと定めないまま使われているように思われます。公益財団法人体質研究会では、放射線リスクの分野に関わる大学や研究所などの研究者を結集し、長年にわたりこれについて調査研究を進めてきましたが、その正しい理解と認識を社会に広めるために、調査研究の結果の一部をホームページに掲載し市民の閲覧に供しています。
I. ICRPにおける放射線防護指針の枠組みについて
福島第1原子力発電所の事故によって放射性物質の環境汚染が引き起こされ、その被ばくによる放射線リスクが大きな社会問題となっています。これに関して日本政府は、ICRP(International
Commission on Radiological Protection:国際放射線防護委員会)の放射線防護に関する勧告を基準にして様々な方針を立てています。ここでは、放射線防護に関する重要な基準を作成してきたICRPとは、どのような機関で、その勧告が歴史的にどのような枠組みで作られてきたかを解説します(本文につづく)。
II. 医療放射線被ばくに関するICRPを中心とした国際動向
健康検診で受ける胸部や胃部の X 線撮影だけでなく、最近はCT, PETなどの放射線を用いた診断がさかんに行われるようになっています。診断だけではなく、がん治療にも様々な放射線を用いた治療が行われるようになっています。こうして放射線の医療における利用がしだいに増えていますが、一部の報道では、医療機関での放射線診断による被ばくが原因で、発がんの可能性があると伝えられています。医療行為においても、得られる便益とリスクのバランスを取った放射線防護の最適化が必要とされますが、その国際的な基準は、やはりICRPによって作られ勧告として出されています。ここではICRPを中心として進められている医療放射線被ばくの防護に関する枠組みや動向について述べてみました(本文につづく)。
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