Books (環境と健康Vol.28
No. 4より)
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アンドレアス・ワグナー 著(垂水雄二 訳・解説) 進化の謎を数学で解く |
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(株)文藝春秋 ¥2,000 円+税 |
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ARRIVAL OF THE FITTEST: Solving Evolution’s Greatest Puzzle の訳本だけに、 日本語訳のタイトルには違和感を持つ。むしろキャッチコピーの「“最適者”はどこから来るのか?」の方が良いように思う。というのは、数学で解くという割には、ほとんど数式は出てこない。しかし内容的には、一般人が一番苦手にする順列・組み合わせ、確率などの数学的知識を理解した上での思考法が必要となる。更に進化と言うだけに生物学的な基礎知識も必要であり一般人向けとは言い難い。生物学に興味をもつ大学生や大学院生や研究者向けの本だと思われるが、これまでとは異なるアプローチで進化を考えさせる良書と言える。訳者の解説にあるように「自然淘汰は最適者を保存することができるが、その最適者はどこからやってくるのか」という疑問に答えようとする本である。 この本を理解するには、著者が比喩としてもちいた万有図書館は現実の図書館と大いに異なるが、この世の全ての本を集め、その他にも意味のない単語で綴られた全ての本も集めた万有図書館をイメージできるかどうかにかかっている。例えば、タンパク質は 20 個のアミノ酸からできているので、もし 100 個のアミノ酸を持つタンパク質の総数だけでも、20×20×……と20100(=10130)という天文学的な数となる。その上、アミノ酸の数が異なるタンパク質が多数あり、それら全てが入っている図書館という意味である。同様な思考で DNA の万有図書館、代謝の万有図書館や遺伝子の発現調節回路などの万有図書館を思考している。一方科学的事実として、大腸菌という株は互いに近縁だと思われているが、大腸菌の 13 の異なる株は、その酵素の 20 %が異なっていることや、現在の地球上には 5×1030 もの細菌が存在していることを、さりげなく入れている。 著者が自信を持って書き上げている根拠を幾つか上げているが、コンピュータのエキスパートと組んで、代謝の万有図書館を使って、この大腸菌とグルコースで生存可能な(つまり、この単一の糖から 60 ばかりの生存に不可欠なバイオマス分子を全て合成する能力をもつ) 2,000 の反応を持つ代謝の数は 10170 を超えることを明らかにしていることである。そして、万有図書館の中で、数学理論とコンピュータを駆使して、新しい環境に対応する候補者探しをした結果、膨大な数の候補者がいることを明らかにしている。つまり、生き残れる最適者は、DNA、タンパク質、代謝などの生命の構成要素そのものの性質の中に用意されており、自然淘汰は、簡単に最適者を見つけ出せるというのが結論である。 内海博司(編集委員)
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