Books (環境と健康Vol.28
No. 4より)
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結城康博 著 在宅介護−「自分で選ぶ」視点から |
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(株)岩波新書 ¥820+税 |
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現在 6 割程度の日本人が自宅で最期を迎えることを希望しているそうである。私自身もそのひとりであり、現実はどうなのか、それを可能にするにはどうすればよいかなどを知るべく本書を手に取った。著者は厚労省の委員も務める介護問題のベテランであり、豊富な経験に基づく在宅介護の現状と、将来像についても意見が述べられている。 15 年前、介護保険制度がスタートした時点から、施設介護から在宅介護へと謳われてきたが、そこには厳しい現実があることが本書でよく分かる。在宅介護の主役となるのは嫁であるが、男性の場合も仕事を辞めて親の介護をしなければならなくなるケースが多く、経済的な逼迫も覚悟しなければならない。このような親や配偶者の介護のために離職する人々の数は十万人に達するとされている。要介護度に応じてヘルパーの助けを借りることもできるが、必ずしもこれが有効に働くとは限らない。さらには親の年金をあてにするパラサイト・シングル介護者や高齢者虐待など、在宅介護の多くの問題点が浮き彫りにされる。また介護を必要とする高齢者のうち、認知症のケースが 400 万人を超え、徘徊をはじめとする異常行動が介護を更に難しくしていることが分かる。 本書の後半では在宅介護のサービスの受け方が細かく述べられているが、近年改定された介護保険制度法は著者も述べているように大変わかりにくく、現在なお我が国の介護は試行錯誤の段階であるといえる。また介護師不足の問題なども指摘されており、本書では触れられていないが、福祉の先進国である北欧諸国などのシステムを参考にはできないのであろうか。いずれにせよ在宅介護の道は決して平坦ではないことが分かる。 本庄 巌(編集委員)
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