2015.12.2
 
Books (環境と健康Vol.28 No. 4より)

 

宮脇 昭 著

見えないものを見る力−「潜在自然植生」の思想と実践


(株)藤原書店 ¥2,600+税
2015 年 2 月 28 日発行 ISBN 978-4-86578-006-2

 

 

 植物群落とは、その自然の立地条件、環境条件によって選ばれた種の組み合わせであり、植生とも呼ばれる。著者はライフワークとして、1980 年から約 10 年かけて、日本全国の現地植生を調査し、「日本植生誌全 10 巻」として至文堂より発刊した。第1 巻の「屋久島」から始まり、「九州」、「四国」、「中国」、「近畿」、「中部」、「関東」、「東北」、「北海道」と続き、「琉球列島と小笠原」で完結している。

 その現地調査の中で、著者は「目の前に見える緑」(スギやマツの人工林など)ではなく、「目に見えないその土地本来の自然植生」(シイやカシの常緑広葉樹林)を発見することの大切さを学び、「潜在自然植生」と呼んでいる。この土地の持つ潜在的能力を十分に活かした植生を育てることによって、どんな自然災害にも耐えて、人間のいのちを守る本物の森が出来る。この体験を活かして、その後も著者は国内だけでなく世界各地を駆け回り、それぞれの土地本来の木を植える努力を実践してきた。そこで自然界には、それぞれの種に最高の条件はなく、それぞれ集団の中で競争し、がまんして共生する最適条件こそが「いのちの社会の掟」であることを実感している。

 そこから著者の独自の文明論が展開する。未知の対象を顕在化させるのが科学的思想・思考であり、そこで客観的に計量化できた要素だけを組み合わせて予測したり、新製品を開発するのは技術であって、「科学」と「技術」が混同されている現状を憂慮している。そして真の科学とは「時間と空間の両面で見ることである」と結論付けている。さらに「文明」と「文化」の違いにも言及し、「文明」は「技術」と同様の規格品づくりであるが、「文化」は多様性を重視するところにあるとする。人工技術の手法で画一化された都市文明は、人間にとって極めて快適な最高条件の世界かもしれないが、その先には必ず破滅が待っている。われわれ人類は、地球上では自然の生物社会の一員としての生態系の消費者、言い換えれば森の寄生虫であることを自覚し、「見えないものを見る力」を養うことによって、「人類生存の最適条件」を求めることを 21 世紀の課題とするべきであろう。

 この生態学者からの「潜在的自然植生」の思想提言は、期せずして、「森の思想が人類を救う」との哲学者・梅原猛の提言と同期している。

山岸秀夫(編集委員)