Books (環境と健康Vol.28
No. 4より)
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梅原 猛 著 〔新版〕森の思想が人類を救う |
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(株)PHP 研究所 ¥1,600+税 |
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梅原哲学の全貌を体系化した「人類学序説」は、2013 年に岩波新書として平易な文章で刊行され、日本文化から発信する現代世界への警告の書として大きな反響があった。本書はその約 20 年前に出版された予告編の復刊本であるが、それだけに、トランスサイエンスとしての哲学の先見性の証左としての価値が高い。その骨子は日本古来の信仰としての神道とそれを引き継いだ仏教に関する思索から導かれる、「生命の平等と永遠の循環」である。 本書のタイトルの「森の思想」とは、自然崇拝ということである。すなわち神道は石や山や川や岩や、地や動物や植物の多神教崇拝で、かつて森に住んでいた人類の世界共通の宗教の一つの現われが日本古来の神道と考えている。インドから中国を経て日本に伝えられた大乗仏教も「生きとし生けるものが全部仏に成れる」ということで、日本の仏像は全部木で造られた。密教の仏様は太陽である大日如来であり、その後の浄土教では「草木国土悉皆成仏」で、太陽の光を受けて育つ森の宗教に変化していった。すなわち生きとし生けるものは全て死ぬ、そしてまた子孫によってDNA が生き返って、生と死の間を循環しているとの生命観である。したがって再生するいのちの自然環境を保全するのは当然ということになる。 この世界観から、21 世紀の 3 つの危機として、1)核戦争の危機、2)環境破壊の危機、3)精神崩壊の危機を予言し、それぞれに対応して、(1)核戦争の危機の状況を作っているのは、一神教的世界観の対立に根差すものである。かつての文明は多神教から一神教への方向であったが、今後の文明は一神教から多神教の方向に向かうべきである。なぜなら、多様な宗教に平等な価値を認めて、それぞれの神々を自己の中に取り入れてきた多神教では、諸民族が平等に共存し、核戦争の危機を和らげ、核兵器全廃への道へと自己変革することになる。(2)環境破壊は、人間中心の農耕牧畜文明による自然征服の結果として1万年前から起こっていたことである。すべてのいのちを含む自然中心の森の思想を発展させることにより、世界人類の規範となるような宇宙観を構成し、自然環境を保全することが可能となる。(3)現代文明は人間を宗教や道徳の束縛から解放し、科学技術文明を基礎として人間の欲望を最大限に増大させた利益社会を産んだ。その欲望を生命の永遠の循環という「空の思想」によって反省させ、人間に利他の徳を教える予防策としての役目が、「森の思想」の中にある。 ここには、文理の総合知としての哲学の先見性の面目躍如たるものがある。 山岸秀夫(編集委員)
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