Books (環境と健康Vol.28
No. 3より)
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斎藤貴男 著 子宮頚がんワクチン事件 |
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(株)集英社インターナショナル ¥1,400+税 |
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1983 年、ドイツのハウゼン博士が子宮頚がんの原因がヒトパピローマウイルス(HPV)であることを発見、2008 年にはこの業績に対して同氏にノーベル賞が授与されている。当然のこととしてこの病気に対するワクチンの開発が行われ、わが国でもハローキティや女優の仁科亜季子、仁美母娘による啓発のキャンペーンが盛んに行われた。しかしワクチン接種によると思われる副作用の報告が相次ぎ、2013 年、厚労省は接種の積極的勧奨を中断し今日に至っている。 フリー・ジャーナリストである著者は、副作用に苦しむ人たちからの聴取とワクチン接種を進めた行政側やワクチン製造会社にも切りこみ、この問題を少しずつ明らかにしてゆく。しかし本書の執筆段階ではなお真実は明らかにされておらず、この問題の複雑さが窺い知れる。 ジエンナーの種痘の接種に始まり、我々はワクチンの接種で小児麻痺をはじめ多くの病気を克服してきた。しかしワクチン接種には頻度は異なるが副作用があることも覚悟しなければならず、接種によるメリットと副作用のデメリッとの比率による判断が重要になる。本書でも述べられているが、麻疹のワクチンにおたふく風邪と風疹ワクチンを混ぜた MMR 三種混合ワクチンは髄膜炎の副作用のため 1993 年、厚生省により接種を見合せるよう通達がなされている。また 1996 年から 97 年にかけてインフルエンザによる老人の死亡が大きく報道され、ワクチン接種が勧められたが、実は例年並みのインフルエンザの罹患率で、この過大報道はWHO の予防接種戦略にわが国も乗せられたとする著者の指摘がある。 本書では厚労省、それに関わる医師、ワクチン製造社などワクチン接種を推奨する側と副作用に苦しむ患者側に立つ医師たちとの接種と副作用との因果関係についての完全な見解の対立が示される。そこにはワクチンメーカーや官僚の思惑とワクチン接種による副作用に関わる医師だけでなく、子宮頚がんそのものに苦しむ人々を救いたい医師の意見も複雑に絡み合ってくる。副作用があるにもかかわらず今もワクチン接種が続いている諸外国での対応も参考にすべきであるが、副作用とされるものが実は心因性の反応ないしは癲癇などとする意見、そして重篤な副作用の頻度が 0.003%〜0.006%と低いことなどから、接種を再開すべきとの現場の医師たちの意見も無視できない。接種中止によって今後日本で子宮頚がんの頻度が増加することが危惧されるが、その責任はどこにあるかという大変悩ましい問題も生じるのではないだろうか。 本庄 巌(編集委員)
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