Books (環境と健康Vol.28
No. 3より)
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高野秀行 著 恋するソマリア |
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(株)集英社 ¥1,600+税 |
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探検家として世界の辺境を旅した著者のソマリアでの体験記である。辺境探検家の角幡唯介氏とおなじく早稲田探検部の出身で、本書はソマリアに恋した著者の 4 年間にわたるドキュメンタリーであるが、危険を冒して現地に乗り込んだ旺盛な好奇心に先ず圧倒される。私たち日本人にとってソマリアは最も遠い国である。石油や地下資源を持たないこの国は日本との貿易もなく、また固有の文化や生活も知られていない。ただアデン湾を通行する日本の石油タンカーを襲う海賊の出身地がこのソマリアであること、またイスラム原理主義者がソマリアの住民を殺戮している記事などでこの国の存在を知るくらいである。 エチオピアの南、アフリカの角と呼ばれアデン湾とインド洋に突出した国土を持つこの国はかっては英国とイタリアの植民地であり、独立後は激しい内戦に明け暮れたとされる。褐色の肌と大きな目の整った顔立ちの人々は、世界でも最も学ぶことが難しいソマリア語を話す。元来遊牧民であった彼らは気位が高く、かつ旅人をもてなすしきたりを持ち、固い団結力の氏族社会など西欧社会とは異質の文化である。著者は習得したソマリア語を武器にフリージャーナリストとしてソマリア社会に受け入れられる。はじめソマリア北部のソマリランドで反政府 TV 局の仲間を得るが、その後は治安の悪い南部ソマリアに移り、若く美貌の女性 TV 支局長ハムディのおかげでソマリア社会に深く入ってゆく。この地の半分を支配するイスラム過激派組織アル・シャバーブのため首都のモガディショから出られなかったが、多くのジャーナリストと共に政府軍の装甲車で危険区域に踏み込む機会を得る。しかし帰途にアル・シャバーブの待ち伏せに合い激しい銃撃戦のあと無事脱出する。帰国後に著者は難民としてノルウエーに入国していたハムディにオスロ中央駅で再会するが、アフリカを離れた彼女に以前の精気はなかったのではあるまいか。日本からは最も遠いこの国に著者が熱い思いを持ったのはハムディの存在もあるが、私たちにとって未知の国ソマリアを知る手がかりとして本書は興味深い。 本庄 巌(編集委員)
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