Books (環境と健康Vol.28
No. 3より)
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池内 了 著 核を乗りこえる |
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(株)新日本出版社 ¥1,600+税 |
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5 年ごとに国連で開催される、本年の NPT(核兵器の不拡散に関する条約)再検討会議は、誠に皮肉なことに、「核なき世界」を掲げてノーベル平和賞を受賞した米国大統領の同意が得られずに、会議が決裂して閉幕したことは周知のことである。米国の不同意の理由は、文書案に盛られた「中東非核構想」にあって、中東で唯一の核兵器保有国であるイスラエル(NPT 非加盟)への配慮からと見られている。しかも米国の「核の傘」に依存する日本は、会議で唯一の被爆国の存在感を示せなかった。 本書は、「核の傘」の下に、「平和利用であるから許される」とばかり、推進してきた我が国の原発エネルギーの開発路線に、科学者としての批判を展開し、「石油やウランの様な限りある地下資源文明から、太陽光のような永続する地上資源文明への転換の構想」の具体的な 50 年に亘る工程表を提示しているところに特色がある。その柱は、未来世代に負担を残さない節約と再生可能エネルギーの開発である。 現代では、複雑系やトランスサイエンスなどの科学に起因する問題が引き金となって、種々の新しい哲学や思想や倫理が生み出されている。しかしその出発点は、あくまで「我思う」(自分の頭で考える)ことであり、お任せ民主主義でなく、「我あり」(自立・自治・自決の精神)に通じるものでなければならない。その実現のために、「核エネルギーを乗り越える」意思を固め、時間の地平線を長くとって、持続可能な社会を目指して、文明の転換を先取りしていくことを勧めている。 山岸秀夫(編集委員)
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