Books (環境と健康Vol.28
No. 3より)
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青山弘之 編 「アラブの心臓」に何が起きているのか−現代中東の実像 |
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(株)岩波書店 ¥2,400+税 |
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本書が取り上げている「アラブの心臓」とは、古代から現代にいたるまで、その「東西文明の十字路」とされてきた、エジプトと東アラブ地域(シリア、イラク、レバノン、ヨルダン、パレスチナ/イスラエル)である。この一帯の地域は、1916 年のサイクス・ピコ協定の密約に沿って、西欧列強の委任統治領とされ、恣意的な国境画定によって、現在の姿の人工国家群へと分断された。しかしやがてこの地域では、「西洋近代」に対峙する中で、イスラム教徒としての自我に目覚め、アラビア圏の智の近代化とイスラム教の信仰との両立を目指して独立を果たし、長期独裁政権が樹立された。その上 1948 年に、この地域に、アラブ人を排除したユダヤ人によるイスラエルが建国されたことが、政治的懸案を増幅させた。 2011 年にエジプトで発生した「1 月 25 日革命」は、市民主導の「民主化」と位置付けられ、やがてその「アラブの春」はシリアにも波及したが、これを支持する欧米諸国の介入の中で、その支援が「混沌のドミノ」の中に埋没して、現在のイスラム過激派のテロ組織を誕生させた過程が、各国別に、6 章に分けて紹介されている。 すなわち、この地域での政治的営為は、既存の国境の枠組みを越えて互いに絡み合っているのである。日々展開する日常から離れた、単線的な概念に基づく欧米諸国の多重基準と論理のすり替えが、一貫性を欠く「テロとの戦い」を産んでいるというのが、本書の視座である。この「東西文明の十字路」に起こった混沌の克服には、その内部からの営為を待たなければならないであろう。 山岸秀夫(編集委員)
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