2015.9.2
 
Books (環境と健康Vol.28 No. 3より)

 

小林俊三 著

ものいう患者−参加する医療を求めて


(株)幻冬舎 ¥1,300+税
2014 年 12 月 5 日発行 ISBN 978-4-344-97121-9

 

 

 本書の著者は、乳がんの外科医(乳腺内分泌外科専門医)であって、60 歳で肺気腫の診断を受け、73 歳で肝臓に転移のある病期 IV の進行性胃がんが発見され、現在薬物治療中の患者でもある。本書は、その 1 年後の 74 歳の夏に抗がん剤治療の休止期間を利用して執筆をはじめられ、その半年後に出版に至ったものである。それだけに医者が患者になって初めて分かった、現代医療の問題点を後代に残したいとの熱意が随所にあふれている。

 本書は 4 章からなり、第 1 章では、証拠に基づく医療(EBM)と物語に基づく医療(NBM)は単独で存在するものでなく、対面する患者と主治医を主役として、その間を調整するチーム医療体制の実現が強調されている。

 第 2 章から著者の闘病体験が始まるが、先ず医師からのインフォームドコンセント(病態の説明と医療行為への同意)に先立って、正確な肺と胃の構造と機能が説明され、その病態と薬効が冷静な科学者の目で描かれている。続いて、呼吸器と消化器の複合症に対して処方される薬剤間の副作用とそれに伴う治療方針の修正・体調管理などの闘病日記が示されている。また一般常識としてはやや高度であるが、医療行為のリスクに対応するのに必要な基本的知識が大変明解に解説されている。第 3 章では、患者の「参加する医療」において大切な主治医は予め存在するものでなく、専門医を治療のパートナーとしての主治医に変えていくのは、患者自身の覚悟にかかっていることが強調されている。

 最後の第 4 章では、「参加する治療」のきっかけは、「ものいう患者」となって、主治医とコンビを組んで取り組むことであり、病気を「災害」の一つと考えて、「防災」はできなくても、「減災」に向かって病気に立ち向かう勇気が期待されている。「ものいう患者」は「文句を言う患者」ではなく、「自分の病気と治療について、主治医や家族や周囲の人たちに話し、一緒に考えてもらうことを通じて、自分の医療環境を調えていく患者」なのである。

山岸秀夫(編集委員)