Books (環境と健康Vol.28
No. 3より)
|
|
高木 修、竹村和久 編 無縁社会のゆくえ−人々の絆はなぜなくなるの? |
|
(株)誠信書房 ¥2,000+税 |
|
現在日本社会は、家庭でも地域でも職場でも、人間関係が希薄になり、マスコミでは、「無縁社会」と命名している。しかしこれは、戦後の高度経済成長の結果としての都市化と経済のグローバル化による「豊かな消費社会」と対をなす負の側面である。本書では、これまでの血縁・地縁・社縁の「有縁社会」での人々の絆が断たれた無縁社会の実態を明らかにする中で、自助・共助・公助による、その対策を提言している。 先ず無縁社会の特徴として目立つのは、単身世帯の増加である。高齢者の場合は人口要因によるとしても、現役世代の単身世帯の場合は、未婚者と離婚者の増大が主要因となっている。その上、都市化による若者の地方からの移動と非正規労働者の増加による雇用関係の不安定化が拍車をかけている。安心して子育てを行うことのできる社会環境の整備が求められている。 しかしその対策として昔の有縁社会へと歴史の歯車を逆転させることは不可能である。ここでは、哲学・倫理学・経済学からの接近として、「お互いに助け合う共同体主義」を、その一つの選択として挙げている。これは社会保障の立場では共助にあたるもので、医療・介護の国民皆保険などは、その一例である。しかも実際には、その維持に企業と家族が深く関与しているのが実態であって、将来的には、税収を財源とした公助の役割を重視する必要が示唆されている。 最後に、高齢者の社会的孤立と孤独に関わる実態が取り上げられ、前者が社会的関係の欠如に起因するのに対して、後者は複雑な心理的側面を含んでいる。これらを支える条件は、健康と社会的活動の維持などであるが、人々の絆を回復する社会関係・人間関係の再構築が、持続可能な少子高齢社会の課題として残されている。 山岸秀夫(編集委員)
|
|
|
|