Books (環境と健康Vol.28
No. 3より)
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鯨岡 峻 著 保育の場で子どもの心をどのように育むのか
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(株)ミネルヴァ書房 ¥2,200+税 |
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「子宝」とは何物にも代えがたい遺産であり、引き継がれる大事ないのちの宝物である。しかし人間の赤ちゃんは、自分では生きていけない未熟な存在であるので、大人が慈しむ心を抱き、成人まで養育するのは自然なことである。1989 年に国連で採択され、1994 年にわが国でも批准された「子どもの権利条約」には、「子どもの最善の利益」を目指す政策が要請されていて、これまで、母子保健の観点に立った各種検診・予防接種、生活保護などが行われ、保護者の就労を可能にする保育所が設置され、「最低限の子供の権利の保障」がなされてきた。 本書は、本年度 2015 年から新たに発足した「幼保連携型認定こども園設置」を含む法改正によって、「子どもの立場に立った子どもの権利」が、「大人の都合から見た子どものための最善の利益」へと変質する危機を感じ、養育・保育・教育にかかわる「子どもの最善の利益」を考えようとしている。子どもを育てる営みとしての、「養護の働き」と「教育の働き」の二面は相補的ではあるが、「子どもの心を育てる」ことを目指す保育がその鍵である。しかも本書の特色は、人と人とが関わる中での「接面」という概念を、保育の基本として取り上げ、「双方の間に生まれる独特の雰囲気を持った空間や時の流れ」として説明しているところにある。したがって、これまでの客観主義、行動主義の流れに逆らう試みである。 本書には、保育の現場での豊富なエピソードが記述され、「子どもの最善の利益」とは「子ども自身が最も幸せに思えること」と結論付けている。大人の思惑に沿って強引に子供を動かす、歪んだ「教育の働き」の現状に警鐘を鳴らす書である。 山岸秀夫(編集委員)
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