Books (環境と健康Vol.28
No. 2より)
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フィリップ・リンベリー、イザベル・オークショット 著(野中香方子 訳) 『ファーマゲドン−安い肉の本当のコスト』 |
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(株)日経 BP 社 ¥2,000+税 |
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1962 年、レイチェル・カーソンは著書「沈黙の春」で農薬の危険性を訴えたが、それから半世紀たった現在、本書は農業だけでなく家畜や魚の養殖に至るまで集約農業による被害が世界規模で広まっていることを告発するものである。今日本政府が始めようとしている大規模農業の将来を考える上でも参考にすべき書物といえる。 日本でも何度か起きた鳥インフルエンザの TV 映像で、膨大な数の鳥が密閉鶏舎の狭いケージで飼われている様子を見たが、全世界で行われているこのような不潔な大量飼育方式がウイルス伝染を広げていることを本書で知らされる。また鶏肉は低脂肪と考えられているが、工場式畜産の鶏肉は体重の 5 分の 1 が脂肪であり、格安チキンナゲットは肥満や健康障害を増やしてきたことが分かる。現在世界の穀物の 3 分の 1 と大豆の 90 %が工場式畜産の餌となっているが、これを人間の食料に変換すれば 30 億人もの人を養うことができるそうである。 大規模酪農業(工場式畜産)の周辺では蝿の大発生や家畜からの大量の糞便による水質汚染が住民の健康を侵しており、コンベアに乗せられ搾乳器につながれるだけの乳牛は劣悪な牛舎の環境におかれ、最後は食肉処理場に送られる。衝撃的なのは生後 6 カ月で出荷される子牛は、生後すぐに身動きできない檻に閉じ込められ、牛乳だけを与えられて極上の柔らかな白い肉にされるくだりである。またわが国でもマグロをはじめ、鯛や河豚などの養殖が行われているが、現在世界の市場の魚の半数は養殖魚であることには少なからず驚いた。しかしそれによって鰯をはじめとする小型魚が激減し天然魚の餌がなくなる悪循環が起きている。また大量の養殖魚の糞による海水汚染が進んでいて、この手法が決して明るい未来をもたらさないことが分かる。これらの工場式畜産方式では世界で生産される抗生剤の半分が成長促進と感染予防のために使用され、その結果抗生剤の利かない様々な耐性菌を生み出している。そして現在中国でも豚の工場式畜産が行われていて、ケージに閉じ込められた豚が一企業で年間 100 万匹生産され、これに要する莫大な玉蜀黍や輸入される大豆、そして糞尿の水質汚染が周囲の環境を汚染し続けている実態がある。しかしその豚の 30 %は日本向けであることも無視できないだろう。 本書の著者は家畜の福祉を重視する団体の長であり、その延長で従来型の自然環境で飼育された畜産方式が世界の将来にとって有益であり、ファーマゲドン(農業がもたらす世界の破滅)を回避する道であると提唱している。
本庄巌(編集委員)
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