2015.3.2
 
Books (環境と健康Vol.28 No. 1より)

 

蒲谷 茂 著

自宅で死にたい


バジリコ株式会社 ¥ 1,500+税
2014 年 7 月 7 日発行 ISBN 978-4-86238-210-8

 

 

 本書の著者は、健康雑誌の編集にかかわる医療ジャーナリストで、高齢社会での医療と介護の問題を取り上げて、「死の間際まで治療を行うことが原則となっている」近代医学の結果として生じる延命治療を考察した後、終末期での在宅医療の場としての自宅での介護を勧めている。
 現在、人口千人当たりの病床数では、日本は米国の 4 倍以上で、世界一の 13.8 であり、約 160 万床ある。しかし年間死亡数が 2010 年では 120 万人で、その 9 割が病院で死を迎えている。その上団塊世代が高齢になる 20 年後の年間死亡数の予測は 166 万人である。本来病院は病気を治し、社会に戻るための病人のものであり、死に場所ではない。つまり病院で亡くなることが出来ない時代が来るのである。

 終末期での在宅医療を可能にするためには、必要な在宅医療・介護サービスの確保の上に、死を受け止める家族の力が必要である。その上で、著者は、「死に逝く自分を見つめ、その自分の姿を家族に見せ、死から学ぶことが、死に逝く者の最後の務めである」と考えている。そして、人は三回死ぬという。最初は肉体の死であり、第 2 は社会的影響力の消失であり、第 3 は死者が人の記憶から消えることである。すなわち生き様が語り続けられる限り、死者は生者の中に生きているのである。本書には、「自宅で死ぬこと」を覚悟した著者の思考の過程が描かれていて、高齢者の「幸福感」について再考を促すものである。

山岸秀夫(編集委員)