2014.12.1
 
Books (環境と健康Vol.27 No. 4より)

 

安藤啓明 著

歴史のなかのミュージアム
−驚異の部屋から大学博物館まで


(株)昭和堂 ¥2,200+税
2014 年 4 月 15 日発行 ISBN 978-4-8122-1407-7

 

 

 小京都と呼ばれるような地方の都市に行くと、ミュージアム都市として街並みが保存され、その地のお宝である資料(モノ)が歴史博物館(ハコ)に収蔵されているが、その宝を十分に活用できる学芸員(ヒト)が不足しているのが実情である。折角貴重な資料が博物館に収蔵されても、活用されなくては“死蔵”であり、意味のない単なる“モノ”となる。このハコ・モノ・ヒトはまさに三位一体であり、博物館にとって必須のものである。

 過去を正しく見つめ直すためには、築きあげられてきた文化財を守ることが大切で、わが国では戦後間もなく、1950 年に「文化財保護法」が制定され、続いて 1951 年に制定された「博物館法」に従って、文化財を守る学芸員が国家資格とされ、「博物館資料の収集、保管、展示および調査研究その他これと関連する事業についての専門的事項をつかさどる」と定めている。しかし現在、長引く経済不況や行財政改革の中で、博物館運営の見直しや合理化が図られ、各種博物館に格差が生じ、その存立自体が危機的状況に置かれている。

 本書の著者は、学芸員養成を行う大学の博物館学芸員であって、第 1 部では国内外の博物館(ハコ)の歴史的沿革を都市形成との関連で考察している。すなわち大航海時代と連動する、王侯・貴族や教会などのコレクションとしての「驚異の部屋」に発する西欧の博物館や、江戸時代の薬品会や明治時代の内国勧業博覧会から発展した国内博物館の創設に触れている。第 2 部で博物館資料(モノ)の形成を概観し、第 3 部で学芸員(ヒト)の人材育成の現状に触れた後、第 4 部では文理の知の拠点としての「大学博物館」の役割の重要性を強調し、研究重視の姿勢から学生教育・地域貢献の活動へとシフトする自助努力を求めている。結論として、「博物館の衰退は文化的停滞と学術的後退を招き、地域ひいては国家の成熟を妨げる」と結んでいる。

 本誌の「いのちの科学プロジェクト」でも、特別企画として京都大学総合博物館で開催される「夏休み学習教室」の一環に加わり、実際に地域社会との交流に手ごたえを感じている次第である。       

       

山岸秀夫(編集委員)