2014.9.1
 
Books (環境と健康Vol.27 No. 3より)

 

倉沢愛子 著

9・30 世界を震撼させた日−インドネシア政変の真相と波紋


岩波書店 ¥2,300+税
2014 年 3 月 18 日発行 ISBN 978-4-00-029128-6

 

 

 1965 年、ジャカルタで起きた軍部によるクーデター未遂事件をきっかけに共産グループに対する大規模な虐殺が始まり、50 万から 100 万人の犠牲者が出てスカルノ大統領の失脚につながる事件があった。アジアでの大規模な虐殺事件としては、カンボジアのポルポト政権によるものが記憶に新しいが、インドネシアでのこのような大量虐殺事件は何故か私たちの記憶にあまり残っていない。また新聞に報道されたとしても大きな扱いにはなっていなかったように思う。しかしそこにこの事件の本質が隠されているように思われるのだ。

 本書では共産勢力への虐殺の契機となった軍事クーデターそのものが、仕組まれたものであったとする見解も紹介されているが、その後に国軍による民衆の扇動もあって全国的な共産主義者の殺戮が行われる。この間日本をはじめ西側諸国はほぼ沈黙を守り、これはスカルノ大統領の容共的姿勢を排除したいという思惑とも関係していると思われる。

 それまでオランダの植民地であったインドネシアの独立に奔走したスカルノは、反帝国主義推進の一環として中国共産党と連携し、左傾化を進めてゆく。しかし 9 月 30 日の 7 名の陸軍将軍殺害の首謀者が共産主義グループとされ、国軍を後ろ盾にした民衆による全国的な共産狩りが始まり、放火、略奪そして大量虐殺が行われる。民衆の扇動には共産主義への恐怖のほかに宗教的あるいは階級的な違いも巧妙に利用され、またアメリカ CIA の関与も指摘されている。なかでも虐殺が最も激しかったのが現在、南国のリゾート地として日本人にも人気の高いバリ島であったのには驚かされる。

 実権を掌握したスハルトは、スカルノを監禁し大量の政治犯を処刑あるいは投獄して政治的な安定を図る。これを見て西側諸国は競ってインドネシアに経済支援を行って新政権に食い込み、日本も経済発展の大きなチャンスをつむ。その後 32 年続いたスハルト政権が崩壊し、やっと政治犯たちは釈放されるが、この国で起きた大量虐殺事件の真相は著者の綿密な調査にもかかわらず闇に包まれた部分が少なくないようである。

本庄 巌(編集委員)