2014.9.1
 
Books (環境と健康Vol.27 No. 3より)

 

1:大村幸弘 著
トロイアの真実


山川出版社 ¥2,500+税
2014 年 3 月 30 日発行 ISBN 978-634-640969-6 C0022

 

2:松田 治 著
トロイア戦争全史


講談社学術文庫 ¥1,000+税
2008 年 9 月 10 日発行 ISBN 978-4-06-159891-1C0122

 

 

 1 :8 歳の時トロイア炎上の挿絵を見たシュリーマンは、ホメロスの叙事詩イリアスに描かれたトロイア戦争を実在の史実と信じ、莫大な資産をつぎ込んでトルコ・ヒサルルックを発掘し、遂にトロイア遺跡の黄金の財宝を探し当てたとして、一躍有名人となる。しかしその後幾つかの疑惑が生じている。

 本書の著者は同じトルコの中央部に位置するカマン・カレホユック遺跡で 40 数年間遺跡の発掘調査を行っている専門的知識を駆使して、それらの疑問点を丁寧に解説してゆく。一般に遺跡は数千年にわたる異なる時代の都市が積み重なっており、シュリーマンが探し当てたとするトロイア王プリアモスの黄金の財宝は、トロイア戦争の時代を約千年遡る青銅器時代のものであることは既に分かっている、さらにトロイア戦争でトロイアの街は焼き尽くされたにもかかわらず、その時代の地層から激しい火災の跡や人骨、武器など戦乱の跡が全く見つかっておらず、この遺跡が果たしてトロイアなのかという根本的な疑問を著者自身の発掘現場の経験から述べ、この遺跡から地名の記された粘土板が発掘されない限りその決着はないだろうとしている。


 2 :本書は西洋古典学者の遺稿を基になったもので、膨大なギリシア神話を縦横に引用しつつ、トロイア戦争の全体図をわれわれに示してくれる。西欧絵画で三人の美神が描かれる「パリスの審判」をよく見かけるが、この出来ごとをきっかけにトロイア王プリアモスの子、王子パリスは絶世の美女、ギリシア・スパルタの王女ヘレーネを奪いトロイアに連れ帰る。妻ヘレーネを奪われた夫メネラーオスはギリシア全土の王を説き伏せてトロイア攻撃の連合軍を編成し兄アガムメノンを総大将としてトロイアに攻め入り、激しい戦闘の末、よく知られた木馬の奇計によってトロイアは滅びる。しかし美女一人のためにギリシアが前後10 年にわたり多くの犠牲者を出した戦を何故続けたのか、その動機に無理が感じられるが、戦勝国ギリシアは莫大な金銀財宝や奴隷にした捕虜を連れ帰っており、おそらくトルコの地に栄えていたトロイア国の富を求めた侵略戦争であったのだろう。

 翻って私を含め日本人は何故かギリシア神話の知識に乏しい。聖書の物語は書物や映画でなじみがあるがギリシア神話に関してはそのような機会はほとんどない。しかし本書によってパリスの審判をはじめ、多くのギリシア神話や神々の役割などを改めて知ることができた。
 

本庄 巌(編集委員)