2014.6.2
 
Books (環境と健康Vol.27 No. 2より)

 

ウルリッヒ・ベック 著(山本 啓 訳)

世界リスク社会


法政大学出版局 ¥ 3,600+税
2014 年 1 月 30 日発行 ISBN 978-4-588-01004-0

 

 

 本書の原著は 1999 年の出版であるが、3・11 の大震災を体験して、改めて世界リスク社会が現実のものとなり、本書がそれを予感させる問題提起の書だったとの認識のもとに新たに翻訳されたものである。本書の特徴は、リスクを計算可能なものとし、相互扶助の保険制度を発展させた地域産業社会(モダン、第 1 の近代)から、コントロール不可能な危険を含む無保険の世界リスク社会(ポストモダン、第 2 の近代)へのパラダイム変換を提起し、その仮想が 20 世紀末から現実味を帯びてきているところにある。

 第 1 の近代では、国民は国家に帰属し、国家が公共の福祉を支えてくれるが、政治的には不完全な民主主義であり、自ら選んだ政治家に権限を全面的に丸投げし、マスメディアの情報の受け手として、リスクを(発生確率と大きさの積として)計算可能なものと考えてきた。しかし第 2 の近代では、科学の進歩と専門化によって知識が深化し、その人工的なリスクの大きさが世界的に拡大し、福祉国家の枠組みを越えて、意図せざる帰結をもたらす可能性を指摘している。その例として、テロや戦争以外に、地球温暖化などの環境リスクや原子力や遺伝子力などのあまりにも複雑なリスク要因を挙げている。

 そこで今後のリスク社会の中にあっては、自分たちの主体性による集団形成やネットワーク化を図り、公共空間を形成する必要を強調し、グローバリゼーションとローカリゼーションの相互浸透と融合によるグローカリゼーションに帰結していくコスモポリタン的リアリズムを提起しているが、その未来像は明らかでない。

山岸秀夫(編集委員)