2014.6.2
 
Books (環境と健康Vol.27 No. 2より)

 

内山 節 著

新・幸福論−「近現代」の次に来るもの


(株)新潮社 ¥ 1,100+税
2013 年 12 月 20 日発行 ISBN 978-4-10-603738-2

 

 

 本書でとりあげている近現代とは、日本では明治維新以降、ヨーロッパでいえば 18 世紀以降の資本主義というフレームの中での熱狂的な国民国家、個人の社会としての市民社会である。本書のテーマは、経済成長の目標を失い虚無感が漂い始めた現代とはどんな時代であるのかを問い、「幸せとは何か」を改めて考えるところにある。

 近現代では、個人が孤立した「人々」として生き、格差社会が固定化され、見通しのない非正規雇用の若い世代を大量に生み出し、友情よりも金を大事にし、人生の目的が金になり、金が人間の価値を決め、人間性の喪失へと変容していった。ここでは自然の生き物同様、目標を持つ必要性のない幸せな生が提起されている。

 今もなお経済成長、自助努力、自己責任、強い国家などの破綻した古い枠組みに戻す論理が幻想を振りまいているが、人間は家族、仕事、自然、文化などとの関係性の中で自己の存在を作り出しているのであり、それを消去したところに存在はない。個人が孤立した「人々」でなく、「われわれ」という結び合う仲間の関係の中で、自己の存在を見出すのである。すなわち共に生きる社会へ、共に生きる(地域)経済へ、結び合う世界の中にローカルな世界を見出して、新しい関係を創造する幸せがあると結んでいる。

山岸秀夫(編集委員)