Books (環境と健康Vol.27
No. 2より)
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橘木俊詔、広井良典 著 脱「成長」戦略−新しい福祉国家へ |
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(株)岩波書店 ¥ 1,900+税 |
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本書は、わが国が少子高齢社会での新しい福祉国家を目指すには成長経済を脱して、定常型経済へと舵を切る必要があるとの提言を、二人の著者の対談形式で世に問うものである。 論点は 4 つに分けられ、第 1 に成長戦略による人々の所得格差や都市と地方間の地域格差の拡大を取り上げている。第 2 に、そこで生じた貧富の格差を是正する社会保障を取り上げている。ここでは近年顕著になってきた非正規雇用の拡大などを挙げて、教育を含めた「人生前半の社会保障」をテーマとしているところに特色がある。また生活保護(公的扶助)を底辺とした社会保険、雇用などの社会的セーフティネットの構築を求めている。第 3 に、社会保障をどのようにして実現するかを議論し、公助重視の北欧、共助重視の大陸ヨーロッパ、自助重視のアメリカを取り上げて考察している。ここでの論点の特色は、社会保障においても、福祉・介護の場で使われる「ケア」の広い意味で、人間同士が助け合うということの重要性である。第 4 に、結論として、「環境・福祉・経済」の 3 者が並立できる定常型社会として、「脱成長の福祉国家」を新しい今後の社会のビジョンとしている。ここには環境保全と個人の生活保障の両者を実現していく社会像があり、地域社会から地球社会までを含む全体的に必要な富の再分配を行うような構想が語られている。山岸秀夫(編集委員)
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