2014.6.2
 
Books (環境と健康Vol.27 No. 2より)

 

加瀬介朗 著

貧困のない幸せな社会へ


(株)星雲社 ¥ 2,520+税
2014 年 1 月 6 日発行 ISBN 978-4-434-18904-9

 

 

 国家財政の借金で、わが国が早晩自滅する事態になる原因として、少子高齢化と社会保障があげられる昨今であるが、敢えて人間存在の理想に戻り、フランス革命に先立つ啓蒙思想家、J.J. ルソー(1712−1778)の社会契約論に基づく、わが国憲法第 25 条の生存権(すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営む権利)に焦点を当てて、社会保障制度の改革構想を提言しているところに本書の特色がある。

 すなわち「人は、幸せであるために生まれてきた。社会は、私たちが幸せに暮らすためのものである」との言葉は、ルソーの発したもので、人の生存権は社会を形成する以前から存在する自然権であって、社会がその実現を個人に契約したものであるとする。そこでフランス革命が成し得なかった、ルソーの「実質的平等社会」の実現を希求しているのが、「非武装・中立」と並んで、わが国が世界に誇る憲法の理想である。

 本書では現実問題として、先進諸国での社会保障の施策や制度を考察したのちに提言しているが、その要点は、わが国における生活保障制度を例外的な存在と考え、社会手当・社会サービスを充実させ、雇用を完全に保障し、教育の徹底的平等化を実現し、医療と公的年金制度を改革し、全ての国民にナショナル・ミニマムを普く保証することである。一見このような実質的平等社会の実現は、非現実的と思われるかもしれないが、多くの国民が最も重視していることであり、この重要な生存権の理念を社会は置き去りにしてはならないと結んでいる。

山岸秀夫(編集委員)