2014.3.3
 
Books (環境と健康Vol.27 No. 1より)

 

村田翼夫、佐藤眞理子 編著

南南教育協力の現状と可能性−ASEAN新興ドナーを中心に−


協同出版 ¥ 2,500+税 2013 年 11 月 10 日発行

 

 

 近年、発展した開発途上国が後発の開発途上国に協力援助するケースが増えており、それは南南協力と呼ばれている。教育領域における場合が南南教育協力である。東南アジア諸国では、タイ、マレーシア、シンガポールのような開発の進んだ国が、低開発のラオス、カンボジア、ミャンマーあるいはアフリカのケニア、ウガンダ、ザンビアなどへ協力援助しつつある。また、いまだ経済的には低開発状況にあるが、教育的に国際援助を実施しているベトナムのケースもみられる。その際、開発途上国間のみで行われるケースと日本のような先進国が関わっているケースがある。それらの南南教育協力は、主に国家間レベルで実施されているが、中には民間団体が関与しているケースもある。

 こうした南南協力が、どうして実施されるようになったのであろうか。主には、開発途上国の中で開発が進み中進国が登場し他の低開発国に経済的、社会的協力援助を行えるようになったわけである。しかも、開発途上国同士は、経済的、社会的開発の経緯・段階が比較的に類似しており、また、文化的、社会的背景が似通っていて協力援助がし易いという事情もあった。それらのことを考慮しつつ、本書において ASEAN(東南アジア 10 ヶ国)の中で発展が著しく新興ドナーとみなされている 5 ヶ国(フィリピン、タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシア)の国際教育協力プログラムを中心に検討している。国毎の章(5 章)にコラム・ベトナムと序章・終章の構成である。執筆は、各国の教育専門家が担当している。

 本書の発端は、平成 18 年度(2006 年度)から平成 20 年度(2008 年度)にかけて科研費(基盤研究A)「南南教育協力の必要性と可能性−環インド洋地域に留意して−」のテーマで共同研究調査を行ったことにある。今回の出版は、主にこの科研費研究の成果をまとめたものである。本書を通して実際に行われていた南南教育協力の性格についてみると、東南アジア地域の新興ドナーである 5 ヶ国などが主に 2 国間協力として CLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、べトナム)に対し教育協力を行っていた。その中身は、教員研修、技能・技術者研修、経営者研修、留学生への奨学金提供、学校・児童生徒学生寮の設立などが含まれていた。その他、フィリピンが、JICA の協力を得つつアフリカのケニア、ウガンダ、ガーナ等の中等理数科教員に対し研修も行っていた。

 南南教育協力を行う主体に関しては、政府開発援助(ODA)が主なものであるが、各国の協力プロジェクトに先進国である日本、オーストラリア、ニュージランドなどが関与して三角協力あるいはパートナーシップ・プログラムを実施するケースも増えていた。また、東南アジア各国が ASEAN 統合イニシアティヴ(IAI)のような国際プログラムを組織し国際協力を実施する例もみられた。例えば、シンガポールは、IAI のプログラムとして CLMV との経済格差是正のためにそれらの国に研修センターを設立し各種の知識技能・経営研修を行っていた。さらに、東南アジア教育大臣機構(SEAMEO)の国際的な理数科教育研修センター(RECSAM)が、東南アジア各国の中等理数科教員の研修を行ってきている上に、アフリカ諸国の中等理数科教員に研修の機会を与える実践もあった。後者のケースには JICA も協力していた。

 ASEAN 新興ドナー国における本調査によれば、各国の南南教育協力プログラムに対する研修者の評価は高かった。その理由として挙げられているのは、第1 に先進国ドナーに比べ、新興ドナーと被援助国の環境条件(居住、食事、宗教、慣習、学校教育等)が類似している。第 2 に南南教育協力における適正技術が活用されている。第 3 に南北協力に比して研修事業経費(宿泊費、交通費、日当等)が安価である。第 4 にプログラムの使用言語の近接性(マレー語系、タイ・ラオス語等)である。本書は、国際協力の新しい動向である南南教育協力の上述のような特質を認識し、国際協力援助コミュニティにおける ASEAN 新興ドナー国や日本のこれからの役割と可能性、そして課題を理解するのに役立つと思われる。

村田翼夫(編著者)