2014.3.3
 
Books (環境と健康Vol.27 No. 1より)

 

津守 眞 著

保育の現在−学びの友と語る−


(株)萌文書林 ¥ 2,200+税
2013 年 5 月 11 日発行 ISBN 978-4-89347-187-1

 

 

 本書の著者は、お茶の水女子大学児童学科にて、約 30 年間に亘って保育学に関する講義をして学生を指導された後、定年を前にした 1983 年に教授職を辞されて、愛育養護学校の校長に転任されて現在に至る。米寿を迎えられる今日までの更に約 30 年間、障碍者保育の現場に身を投じられて、保育の観察者から転じて実践者の道を歩んでこられた。その実践を踏まえた思索は、毎年1 回お茶の水女子大学での教え子たちの保育研究グループ「はるにれ」で話されてきた。本書は、その記録に基づいて、教え子たちによって編集された特色のある講演集であるが、本書の題名に恥じない現代的話題を含んでいる。定年期を境に、第 1 の人生での保育研究の成果を、第 2 の人生での養護の実践の場で保育の臨床として問い、高齢者としての著者が、直接幼児や知的障碍者と触れ合って得られる日々新たな発見が本書に盛り込まれている。

 例えば、物を放り投げたり、髪の毛を引っ張ったりして、他者に危害を与えるような行為があった場合には、従来は当事者の子どもを鍵のかかる部屋に一時隔離したが、著者はあくまでも 1 対 1 の対応の中で、その行為の意味を探り、当事者の心に触れる行動の中で解決しようとしている。また敢えて危険な高所を選んで歩く子どもの中にも、誰かに支えを求める心を発見している。著者は、幼児教育の場でも、養護教育の場でも、一貫して、言葉を話さない子供の持つ言葉を行為面から理解しようとしている。

 また著者は OMEP(世界幼児教育・保育機構)日本委員会の会長を務められたことがあり、「未来を託す子どもの保育の場に平和を生み出す文化がある」として、保育の概念の画期的な転換を求めておられる。

山岸秀夫(編集委員)