2013.12.2
 
Books (環境と健康Vol.26 No. 4より)

 

大友芳恵 著

低所得高齢者の生活と尊厳軽視の実態−死にゆきかたを選べない人びと


(株)法律文化社 ¥ 3100+税
2013 年 5 月 30 日発行 ISBN 978-4-589-03520-2

 

 

 著者は、特別養護老人ホーム生活指導員としての長年に亘る経験を活かして、少子高齢化と経済的格差社会の中で、アリのように働き続けたあげくキリギリスのように果てていく低所得高齢者(年額 150 万円以下、75 歳以上)の実態を統計資料でなくライフストーリーとして明らかにしているところに特色がある。

 先ず都市部における在宅高齢者の生活実態に関しては、居宅介護支援事務所のケアマネージャーの協力を得て、2006 年に A 市内の一人暮らし高齢者数の 1 %にあたる 1,300 名にアンケートを発送し、回収された 342 名の集計解析を行っている。その中の 50 名に関しては、2007 年 10 月から翌年 1 月にかけて各 1 時間半程度のインタビューを実施した。ここでは、青年期に戦争を経験して、成人期の高度経済成長の中でひたすら働けども低所得状況を余儀なくされた挙句、多くを望まず声をひそめて生きている姿が示されており、「高齢者イコール金持ち老人」という「偽りのリアリティ」に一石を投じている。
 次いで明治期に開拓住民によって人口が構成された北海道を中心に、地方における高齢者の生活状況が取り上げられている。ここでは、地域の社会福祉協議会の協力を得て、高齢者夫婦 9 世帯、一人暮らし高齢者 15 世帯のインタビューを行っているが、その客観化のため記録者が同席して、本人の了解を得た上でのメモに基づいて、ライフストーリー的分析を行った。その結果、現役時代の社会階層性が高齢期の生活に大きく作用している現状が示され、都市部と同様に、経済的要因が人との関係性を限定し、ひっそりと生活する高齢者の姿が共通して見出される。

 さらに 2009 年に道内特養ホーム 65 施設に対するアンケート調査を実施し、55 %の回収率を得て、施設で老いる要介護高齢者の生活保障の限界を示している。すなわち所得の多寡によって施設利用が限定されているのである。従ってその人生の終焉も他者に知られないことが多い。これは一概に価値の多様化、多元化として容認されるものではない。著者はおわりに永六輔の「大往生」の一文を紹介して、「生まれてきてよかった、生きてきてよかった」と思えるような、尊厳ある「人生」を可能にする社会の構築を今後の課題としている。

山岸秀夫(編集委員)