2013.12.2
 
Books (環境と健康Vol.26 No. 4より)

 

樋口和憲 著

笑いの日本文化−「 烏滸 おこ の者」はどこへ消えたのか?


東海大学出版会 ¥ 2,000+税
2013 年 6 月 24 日発行 ISBN 978-4-4

 

 

 本書は、柳田国男の注目した「烏滸の者」から想像力を膨らませて、日本人の笑いの文化に民俗学的考証を行ったものであって、仮説に満ちた「笑い」に関する斬新な提言の書である。

 かつて日本に存在した「烏滸の者」とは、笑いを神に捧げることにより、人々に平安をもたらす道化者のことであったが、現代の辞書では「愚か者」と曲解されている。すなわち古代の人々は、自然災害の中でも最大の恐怖の的である雷を「神鳴り」(神の笑い)と捉えたので、神を敵としないように、笑いでご機嫌を取る役割を果たしたのが「烏滸の者」の祖型と考えている。またその笑いの特質として、非暴力、公共性、価値の逆転などがあげられている。

 本書では、このような笑いの起源の考証から始まって、神話の神々の笑い、山の神に捧げる笑い、共同体の祭りの中の笑い、笑いの都市化、笑いを排除するグローバル社会、知の巨人たちの笑い、災害の国日本と「無常の笑い」へと連なっていく。おわりに、競争と闘争、紛争と戦争、格差と差別を拡大する一方のグローバル化社会で、笑いは平安と共存を目指す「平和の祈り」であって、抑圧された消費する笑いから喜びや充実感を伴う幸福な笑いへの変容をもたらす、現代の「烏滸の者」は、私たち一人一人の心の中に見つけることが出来るのではないかと結んでいる。

山岸秀夫(編集委員)