2013.9.2
 
Books (環境と健康Vol.26 No. 3より)

 

岩槻邦男 著

新・植物とつきあう本


(株)研成社 ¥ 1,400+税
2013 年 6 月 25 日発行 ISBN 978-4-87639-525-5

 

 

 本書は、ほぼ 30 年前に著者が初めて書いた縦書きの本「植物とつき合う本−植物分類学への序章」の改訂版である。30 年前のその頃、著者は京都大学教授から東京大学教授として江戸時代からの伝統ある小石川の理学部付属植物園長に転任し、「科学のための科学」と並行して、「社会のための科学」を目指し始めた。今回の著書は改訂版とはいえ、30 年間の科学の進歩を取り入れて全体を再構成し、その後の博物館での経験も取り入れた、「植物と付き合う意味を問う」本として再生したものである。

 最初の第 1 章は、孫娘と連れ立って野原に出かけ、四つ葉のクローバーを探す話から始まる。ここでは孫娘が見つけた黄色い花をつけたやや大型の三つ葉のカタバミと白や紫の花をつける三つ葉のクローバーとの違いを説明する会話の中に、植物系統分類学の根幹に触れる問題が提出されている。その上、三つ葉と四つ葉の違いの説明として、遺伝子変異であるか遺伝子発現時の環境条件の違いによるものかの考察もめぐらされている。

 続く第 2 章では、野外観察の他に植物園や博物館の楽しみを紹介している。第 3 章では、衣食住に役立つ植物、里地里山のような暮らしの場にある植物、科学の対象としての植物へと話を進めている。第4 章は、「人から見た植物」、「植物から見た人」とのユニークな章立てで、30 数億年に及ぶ植物とほんの 10 数万年前に誕生した現生人類との共生を論じ、万物の霊長と言いながら首を傾げるような行為を重ねている人と身を挺して生物多様性の危機を予告している植物たちとの生き方を比較している。そして生物多様性に富む緑豊かな日本列島を守り通してきた、私たちの先祖の知恵「里地里山」に思いを致している。

 なお「陸上植物の種」について、1979 年に出版された著者の最初の単著が最近新装本として復刊された(東京大学出版会、2013 年 7 月 19 日発行)。30 数億年の歴史性を背負う植物の世界をより詳しく知りたい方には、この分野の最近 30 数年の進展の歴史と比較参照されることと併せて、是非お勧めしたい。

山岸秀夫(編集委員)