Books (環境と健康Vol.26
No. 3より)
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岩槻邦男 著 桜がなくなる日−生物の絶滅と多様性を考える |
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(株)平凡社 ¥ 760+税 |
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全ての地球上の生物個体の生命に寿命がある事は誰でも認めている。それでも世代を越えていのちが連なることによって、集団としての個体(種)は長期に亘って存続してきた。しかし種にも寿命があって、一定の地質年代を経ると交替し、多様化してきた。30 数億年の生物進化の歴史の中でも、無脊椎動物が爆発的に多様化した 5 億年余り前のカンブリア紀以来、5 度の生物の大絶滅があったとされている。中生代に繁栄した恐竜を始め 90%に及ぶ種を絶滅させたとする直近 6,500 万年前の大絶滅の際も、きっかけとなったらしい大隕石の衝突により地球環境が変動したが、それぞれの種の絶滅に到るまでには数十万年の時間がかかったらしい。少なくとも過去の大絶滅では、辛うじて欠けた部分を補う進化が演じられ多様化する時間があったようである。しかし絶滅が危倶される日本の植物のリスト(レッドデータブック)の作成に長年かかわってきた本書の著者によると、現在絶滅が危倶されている種の数は過去50 年の間にさえ加速されて増大し、これまで地球上で演じられてきた生物の進化の歴史では経験されなかったほど絶滅が急速に進んでいるとのことである。生物種を絶滅に追いやる原因としては、総合的な地球温暖化の影響のほかに、(1)人間の開発行為、(2)過剰な採取、(3)外来種や化学物質による影響などがあげられている。 本書の衝撃的なタイトル「桜がなくなる日」は、まさにその副題の「生物の絶滅と多様性を考える」立場からの警告である。全ての生き物が相互に関係性を分かち合って生きている以上、リストに載せられた特定の種だけの絶滅でなく、生物多様性が崩壊し、大多数の種に生存の危機が訪れる。全盛を誇るサクラにも、人間にも、その滅亡は例外と断言できる人は誰もいない。本書は現在の生物多様性の危機に警鐘を鳴らすことで一貫しているが、上代の日本人の美意識にも言及し、実利を目途に大陸からもたらされた平城京の梅と美意識から愛好された日本固有種としての平安京の桜の比較をはじめ、その他の具体的な例をコラムに取り上げて、人は生物多様性の一要素であり、多様な生物がいなくなれば、人は存在しえないと断言している。すなわち環境保護からもう一歩踏み出して、自分自身の生存のためにも地球の自然と共生し続けることを提案している。 山岸秀夫(編集委員)
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