Books (環境と健康Vol.26
No. 2より)
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大谷栄一、藤本頼生 編著 地域社会をつくる宗教 |
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(株)明石書店 ¥2,500+税 |
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本書は、信仰の問題として宗教をとらえるのでなく、社寺の公共的役割に注目し、日本の地域社会で祖先や自然との「つながり」を大事にしてきた公と民との間にある共同体として、すなわち社会関係資本(ソーシャルキャピタル)としてとらえている。現在でも全国の中学校区の総数ほぼ1 万に対して、宗教法人としての神社や寺院はそれぞれほぼ 8 万存在し、免税されている。しかるに少子高齢化の進行とともに核家族化し、地域社会が弱体化し、「いのち」のつながりを失った無縁社会での孤独死が増え、2011 年の統計では自殺者の数を上回り、年間 3 万人を超えている。 本文は3 部からなり、第1 部では、社寺が地域社会で果たしてきた役割を取り上げ、住民の連帯の証しとしての祭礼や先祖の「いのち」のつながりとしての葬送儀礼の変化に言及し、在日コリアン寺院に見られる宗派を超えた新しい社会的ネットワークの形成が紹介されている。第 2 部では、社寺の社会的役割が取り上げられ、少子高齢化に直面する過疎地域での貢献と、故郷を喪失し孤立した「無縁」の苦を契機として「結縁」させる宗教の枠を超越した都市でのNPO 活動の事例が示されている。第3 部は「生成する新しいつながり」と題して、ボランティア活動の動機にみる宗教性、継承者のいない人が互いにつながる共同墓、フェースブックの利用による寺社を通じた地域社会とのつながりなどが取り上げられている。 当編集部オフイス近くの百万遍の浄土宗智恩寺では、毎月 15 日の数珠繰り法要に合わせて開かれる「手作り市」が賑わう。先日「手作り市」の雑踏から抜け出して本堂に上がったところ、丁度法要の始まるときで、誘われて数珠に連なる数十人の輪の中に入った。単純に「なむあみだぶつ」を唱えながら、左から右へと数珠を送っていくだけであるが、一定の間隔で大きい数珠が来るたびに阿弥陀仏とみなして頭上に捧げる。するとやがて輪が上下に波打ち、念仏の声もリズミカルに同調し、互いに見知らぬ仲とはいえ、沸き起こる一体感に包まれた。宗教的儀礼には見知らぬ人たちを連ねる力のある事を実感した次第である。
山岸秀夫(編集委員)
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