Books (環境と健康Vol.26
No. 2より)
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滝川一廣 著 子どものそだちとその臨床 |
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(株)日本評論社 ¥2,000+税 |
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本書では、著者が長年児童福祉センターに臨床精神科医として勤務した経験を活かして、質的な障害とみなされている「発達障害」に対する疑問から発して、「発達障害」の本質を脳などの生物学的発達の相対的な遅れとみなし、通常の平均的発達と連続性を持つものであるとの論考を展開している。 先ず「精神発達」を考えるとき、「こころ(精神)」を哲学ほど難解にもせず、自然科学としての脳にも棚上げせず、主観的なものとして互いに共有可能な関係世界であるとしている。未知の世界に一つの個体として産み落とされたその瞬間から、赤ちゃんは二つの精神作業に取り組むことになる。一つは全く未知なこの世界を理解(認識)してゆくこと、もう一つはこの世界と関係を取り結ぶ(社会性)ことである。その両者の定型発達からの偏り(正常偏倚)、個体差として、知的障害(精神遅滞)、アスペルガー障害や自閉症を位置付けている。また先天的な視聴覚障害に対しても、子どもが人間の共同世界(社会)と体験を共有して生きるために、どのように支援できるかを問題として、人工内耳の開発や将来の IT 機器の活用に期待を寄せている。 また少子高齢化の時代に入って、マスコミはことさらに若者の自殺や少年殺人を取り上げているが、実態は高度経済成長期に比べて、いずれも10 万人当たりの比率はこの半世紀に 1/4 程度に減少している。著者は、国民総生産に占める公的教育予算が先進 19 ヶ国中のラスト 3 にもかかわらず、現在の高学歴社会を支えているのが親(家族)であり、その家族社会の崩壊とリンクした現象として現在の少子化問題をとらえている。それだけに子どもの多様な能力を社会が包み込んで守り育てるという思想に立ち、グローバルな競争に勝ち抜いて生き残るよりも、「小さく貧乏」して、つましくはあっても穏やかで平和な社会を持続するのを選ぶべきではないかとの提言には共感するものがある。
山岸秀夫(編集委員)
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