2013.6.3
 
Books (環境と健康Vol.26 No. 2より)

 

中山 理、K. ライアン 他 4 名 編著

グローバル時代の幸福と社会的責任
−日本のモラル、アメリカのモラル


麗澤大学出版会 ¥1,800+税
2012 年 11 月 20 日発行 ISBN 978-4-89205-615-4

 

 

 本書は、麗澤大学道徳科学教育センターと米国ボストン大学教育学部品性・社会的責任センターとの日米共同プロジェクトの産物である。ここでは、道徳に関する下記 9 項目、勇気(Courage)、正義(Justice)、慈愛(Benevolence)、感謝(Gratitude)、知恵(Wisdom)、内省(Reflection)、尊敬(Respect)、責任(Responsibility)、節制(Temperance)に亘って、両国の執筆者がそれぞれ自国のエピソードを交えて論じている。特定の教育機関間での論考とはいえ、人間を取り巻く世界との関係において自己の存在をどのように読み解くかに関し、東西の枠組みを超えた一体感と共に、それぞれの考え方の違いを認め合うことに成功していると言える。

 最初の項目の「勇気」に関しても、ヒーローの演ずる西部劇映画「真昼の決闘」と新渡戸稲造の「武士道」に連なるエピソードが取り上げられているように、米国の執筆者たちが徳を実行することが自己改善の一助と考えているのに対し、日本人執筆者たちは個人の善ではなく万物との関係性の中の自己を重視する傾向がみられる。前者では、自己を他者からある程度切り離し、道徳的行為に責任を担えるのは個人であるとするが、後者での道徳的行為では、状況次第で選択される行動規範が社会的に許容されている。とはいえ選択の本質は、自律的自己だけでなく他者にも影響を及ぼすので、自己利益に執着しない大局観、万物の中で私たちの占める場の相対的重要性を知る感覚と通ずる。結びとして両者は大局観を失わずに自己の重要性を認識し、世界像を独り占めするのでなく、さりとて集団の中に埋没するのでもない自己像を思い描けるところに、グローバル時代の幸福を求めている。

 本書のようなテーマでの民間レベルの多様なエピソードを交えた心の交流が、日米間だけでなく、今後日中、日韓、日朝、日露をはじめとして近隣諸国間でも行われることが強く望まれる次第である。

 

山岸秀夫(編集委員)