2013.3.3
 
Books (環境と健康Vol.26 No. 1より)

 

秋田 巌・金山由美 編

死を育てる


(株)ナカニシヤ出版 ¥2,000+税
2012 年 6 月 20 日発行 ISBN 978-4-7795-0648-2

 

 

 本書の題名「死を育てる」は、著名な免疫学者でもあり文筆家でもあった多田冨雄氏が、脳梗塞による重度の後遺症を背負いつつ最後まで生き抜かれた末に、生まれた言葉である。その観点から自殺防止を目指して開かれたシンポジュウムの記録として本書は編集されていて、そのシンポジスト 4 人の講演と総合討論からなる 5 章が、編者による序章と終章で包み込まれている。2010 年度段階での日本人の自殺率は、世界 104 ヶ国中 6 位で、年間 3 万人超、毎日 100 人以上の方々が自殺されている。

 第 1 章「人はなぜ自殺するのか」では、「自殺」の全体像が紹介され、日本人男性では 20 歳から 44 歳まで、女性では15 歳から34 歳までの死因第1 位が自殺であることに驚かされる。自殺に人を追い込むのは孤立と絶望であるので、ここでは人間一人一人の「違い」を受け入れられる「人」と「社会」を育てることが強調されている。第 2 章「死を育てるは命を育てる」では、無縁社会から有縁社会への回帰の方向が示唆され、第 3 章「仏教における死の問題」では、人は死すべき諸行無常の存在であるからこそ、「今という瞬間」を無駄にしないことが説かれ、第 4 章「性的マイノリティと自殺」では、50 人に 1 人の割合とも言われる性同一性障害に悩む方々の自殺関連行動の高さが取り上げられ、「心理的な孤立を絶滅すること」の重要性が語られている。総合討論の中での「人の実年齢 65 歳は、生命学的には 38 億 65 歳」との指摘には、地球生命誕生以来の個々のいのちの重みが感じられる。終章では、「それぞれの死期は、その人なりの四季のひとめぐりを生きたもの」として、それをさらに育てていくのが、残されたものの役目であり、「死は生を育て、生は死を育てる」と結んでいる。

山岸秀夫(編集委員)