Books (環境と健康Vol.25
No. 4より)
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レベッカ・コスタ 著(藤井留美 訳) 文明はなぜ崩壊するのか |
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(株)原書房 ¥ 2,300+税 |
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著者は、カリフォルニア・シリコンバレーでマーケティングのベンチャー企業を立ち上げ、その CEO を務めた後、会社を売却し、本書のための調査と執筆に 6 年を費やし、2010 年に出版した。原題は The Watchman’s Rattle: Thinking our way out of extinction で、直訳すれば「夜警の警報:現代文明の終焉を考える」となる。 最初に数々の滅亡した古代文明として、メキシコを中心としたマヤ文明、古代エジプト、ローマ帝国、カンボジアを中心としたクメール王朝、明王朝、ビザンティン帝国などを取り上げ、いずれも水利基盤や環境面の課題が複雑になりすぎて、超自然的な思い込みが人心に忍び寄り、合理的な解決策が退けられたことが原因であるとしている。 ところで遺伝子の遺産がゲノムと呼ばれるのに対して、文化の遺産はミームと呼ばれ、いずれの情報も自己増殖し、縦方向に世代から世代へ、横方向に人から人に伝わるのが特徴である。本書では、その社会の表舞台に躍り出て支配的となるミームをスーパーミームと呼んでいる。スーパーミームは経済、宗教、正義、自然、保育、医療のあらゆる領域での、言わば総編集長でもある。その情報の蔓延により、文明のシステムは均質化し、複雑な問題に対峙できる多様度を失う。文明を衰退させるスーパーミームとして、(1)思考停止、(2)責任転嫁、(3)根拠のない相関関係の公認、(4)専門知識の細分化、(5)貨幣経済の行き過ぎによる貧富格差増大の5 項目を取り上げている。このようなシステム異常に対する緩和政策としての公共政策も一時しのぎに過ぎないことを示している。 そこで古代文明に無かったが、現代の人間が持っている二つの武器、すなわち(1)科学的知識と思い込みのバランスの復権、(2)脳の可塑性の利用の2 点を長期対策として挙げている。特に現代文明の複雑な問題と対峙し人類の苦しみを救う、脳の可塑性による「ひらめき」能力に期待している。結末は呆気ないが、グローバルなマスコミ情報に操られて、個々の思考停止を引き起こし、種々の苦しみを第3 者に責任転嫁する現代文明への警鐘として本書を受け止めたい。しかし現代文明の終焉は避けがたく、むしろ共に支え合える規模の縮小社会の中に新しい文明の再生があるのかもしれない。 山岸秀夫(編集委員)
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