2012.9.1
 
Books (環境と健康Vol.25 No. 3より)

 

デイヴィット・ブルックス 著(夏目 大 訳)

人生の科学− 「無意識」があなたの一生を決める


(株)早川書房 ¥ 2,300+税
2012 年 2 月 25 日発行 ISBN978-4-15-2092779-9C0098

 

 

 原著は 2011 年に出版され、原題は、The social animal-The hidden sources of love, character and achievement であり、全米でベストセラーとなった。著者はニューヨーク・タイムスのコラムニストであって、普通の幸福な人生を送った架空の夫婦二人を主人公として、それぞれの起伏のある人生を物語風に 22 章のトピックスに分けて綴り、一般の自叙伝に見られない味のある人生評論となっている。

 著者は、これまでの人類の歴史はあくまで文章に残された「意識の歴史」が中心であって、内側の無意識の世界は無視されてきたとする。そこで多面的な無意識の世界の人生における重要な役割を示すのに、物語形式を用いているのが成功している。各章のトピックスにはそれぞれ、意思決定、結婚とセックス、親子の絆、脳と学習、愛着、貧困と教育、セルフコントロール、成功を決めるもの、知性の限界、無意識の偏見、自由と絆、他者との調和、合理主義の限界、科学と知恵、組織の改革、すれ違い、道徳心、リーダー、真の「社会」主義(共同体主義)、過去との対話、瞑想、人生の意味など、読者の思い当たるような興味深い内容が盛られている。さらに人間社会での、理性よりも感情、個人よりも人と人とのつながりの重要性に注目して、著者は無意識の感情を重視する脳科学の新知見に期待している。

 最後の章で、生まれたときにあったものは、命が終わるときにも変わらずそこにあり、感覚、感情、欲動、渇望などが渾然一体となったもの、すなわちそれが無意識の世界であり、他者と共有できるものであるとしている。すなわち人生は理性、論理に支配されるチェスのようなゲームでなく、果てしなき魂と魂との交流と見ている。このことは、介護医療の現場でも本人の無意識の世界に気づくことの大切さを示唆している。

山岸秀夫(編集委員)