Books (環境と健康Vol.25
No. 2より)
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小島正美 著 誤解だらけの放射能ニュース |
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エネルギーフォーラム新書 ¥900+税 |
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東日本大震災に伴う福島原子力発電所の事故後、「放射線」や「放射能」に関する、非科学的な「危ない、危ない」というマスコミ報道にうんざりし、マスコミ不信に陥った人達も多いと思われる。マスコミ関係者である著者が、マスコミの特性と記者達の使命感ゆえに、物事の危険性を煽ることが起きがちであると解説、雨後のタケノコのように出た「放射線、放射能」の解説本の中では秀逸な一品になっている。ぜひお薦めしたい一冊である。 ニュース(新聞やテレビ、週刊誌などの情報)を読むときに、読者が知っておくべき「ニュースの特性」の三要素「特異的な現象」、「物語」、「アクション」は非常に分かり易い。「特異的な現象」とは、「珍しい出来事や意見」、「世間から注目される動き」、「少数派のアピール」であり、「物語」とは、「共感を得る生涯」、「利他的な行動」、「自己犠牲を伴うボランティア」などであり、「アクション」とは、「政府への抗議行動」、「緊急記者会見」などである。そして、ニュースの大きさや伝播力(伝わり方)は、この要素のかけ算「特異的な現象」×「物語」×「アクション」で決まると説く。マスコミ記者がこの三要素がそろう事象に出遭うと、「間違いなくニュースになる」、「記事も書きやすい」、「伝わる力も大きい」と直感するのは、記者の宿命のようである。しかし残念なことに、そのニュースの中身が科学的にみて、的確かどうかはまったく別次元の話しであるが、悲しいかな、そこまでの知識が無い記者が多い。更に社会にいち早く「警告したい」とか「警鐘を鳴らしたい」と考えているマスコミの宿命として、「危険性を煽る」という落とし穴に陥る。その例として、長野県松本市長菅谷昭氏の例、国会で証言した児玉龍彦東大教授の例、内部被ばくを過剰に危険視する肥田舜太郎医師の例などについての解説は理解しやすい。このようなマスコミ記者が陥る負の連鎖反応によって、「放射線は人工と自然とは異なる」、「内部被ばくは外部被ばくより危険」、「1 ミリシーベルトは安全と危険の境である」など、科学的事実と異なる情報が流れ、「放射能」ニュースは間違いに塗れることになる。 この本のもう一つの特徴として、後半に山下俊一、木下冨雄、島田義也、柴田義貞、斗ヶ沢秀俊らの座談会記録が掲載されている。立派な業績を持ち、今回の事故収拾に献身的な努力をしている学者達が、何故ツイッター上では御用学者と叩かれることになったかの理由が判明し、興味ある座談会となっている。 内海博司(編集委員)
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