2012.6.2
 
Books (環境と健康Vol.25 No. 2より)

 

宮西照夫 著

ひきこもりと大学生
−和歌山大学ひきこもり回復支援プログラムの実践


(株)学苑社 ¥ 2,000 +税
2011 年 11 月 25 日発行 ISBN978-4-7614-0742-1

 

 

 本書の著者は精神医学を専攻し、30 年ほど前から「若者の社会的ひきこもり」に関する研究を行い、現在は和歌山大学保健管理センターの所長・教授として、2002 年より和歌山大学ひきこもり回復支援プロジェクトを開始している。「若者のひきこもり」とは、大学入学後に勉学への意欲を失い不登校となって、社会人として自立する前に、社会からひきこもることである。現在 60 万人以上の若者がひきこもりに苦悩しており、その 4 割以上が 10 年以上に及ぶという悲惨な結果を生み出している。その社会的背景には、戦後 20 年間で高校進学率が倍増し、その後の 20 年間で大学進学率も倍増し、高学歴が人生での成功や幸せを約束するとの妄想的な経済的価値観がある。その結果 1990 年代から、中流以上の家庭に「社会的ひきこもり」が多くみられるようになり、2000 年代に入ってからは、インターネット社会が「生の人間関係」を避ける「社会的ひきこもり」を助長するようになった。なお「テクノストレス症候群」はより深刻な「ひきこもりの一種」で、若者に限らず誰にでも起こるものである。コンピューターに夫を奪われた「コンピューター未亡人」も生じている。

 本来、若者は豊かな感受性や発想力などの精神的能力で満ち溢れているにもかかわらず、狭い既成の価値観がその力を発揮する場を限定するため、現実への適応力の破綻として「ひきこもり」が出現した。したがってその「ひきこもり」からの回復支援の第 1 歩は、「いかにしてひきこもる若者と出会うか?」である。この点では、評者も 1990 年代に大学の学生懇話委員として実感した。その後は、「大学はいつやめてもいいよ」と言える大学人の勇気と、多様な価値観を受け止めてくれる普通の家庭と、悩みを共有できる仲間づくりであるとして結んでいる。

 

山岸秀夫(編集委員)