2012.6.2
 
Books (環境と健康Vol.25 No. 2より)

 

杉岡津岐子 著

子ども学(第 2 版)−その宇宙を知るために


(株)ナカニシヤ出版 ¥ 2,200 +税
2011 年 11 月 1 日発行 ISBN978-4-7795-0596-6

 

 

 本書は第 1 版が 1994 年に出版されて以来17 年が経過し、世の中も大きく変わったので、第 2 版ではほぼ全面改訂が行われた。本書では、「子ども」を、胎児期から大人とみなされる 20 歳までに限定せず、大人の中の子どもの心も含んで、子どもの発達、遊び、病と傷害、歴史の中の存在、子どもの権利の順に章立てされている。最初に人間の一生を 8 段階に分けたエリクソン(1977)の概念が紹介されていて、各発達段階で獲得される能力は、全てリスクを伴う意識的、無意識的心の葛藤の結果としてとらえられている。

 生まれたばかりの乳児の母親に対する信頼感が不信を上回るパターンを学習できたときに生ずる「生きる希望」、乳児期に獲得した基本的信頼感に支えられて積極的に行動する幼児期の「意志力」、児童期の「自発性」、学童期の「自己努力感」、青年期(思春期)の「激動感と忠誠心」、成人期の「愛」、壮年期の「相互扶助」を経て、老年期では、何者にもとらわれない「究極の関心」として老化と死を受容し、次世代に「生きる希望」を伝える英知を獲得する。古典インド医学(アーユルヴェーダ)によれば、日常語としての「四苦八苦する」の四苦とは「生老病死」の苦であるが、生苦は「生きていく苦しみ」ではなく「生まれ出る苦しみ」であって、胎児の英知が生苦を克服してリセットした無知苦から人生が始まるという。

 また今の子どもたちの「安全・安心」優先のリスクを伴わない遊びへの、世代を超えて共有できる文化財としての読む絵本の導入が、幼児期、児童期の人格形成に果たす現代的役割が示されている。さらに健康ばかりに光があてられる価値体系の中で、生きている限り誰にでも生ずる「発達の偏り」、「心の乱れ」として、子どもの「病と傷害」をとらえようとしている。最後に 1989 年に国際法として成立した「子どもの権利条約」が取り上げられている。貧困と発達した情報社会のために、教育の機会を失って「子ども期」を経ないで大人社会に入っていく子供の存在が危倶されている。将来を担う「子どもの世界」は「大人の世界」がなければ存在できないのである。

 

山岸秀夫(編集委員)