Books (環境と健康Vol.25
No. 2より)
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渡 浩一 著 民衆宗教を探る |
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慶友社 ¥ 2,600 +税 |
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地蔵はもともと弥勒菩薩、文殊菩薩、観音菩薩と同格の地蔵菩薩であって、他の菩薩と異なる点は、僧侶の姿をしていて装身具で身を飾っていないことの他に、野仏というと思い浮かべるように多くは鳥居や山門を経ずに直接民衆の眼前にある「お地蔵さん」であることであろう。 本来仏教の教義では、地蔵菩薩は「無仏世界の救主」とされ、釈迦入滅後 56 億7千万年もの長い濁世の間、衆生の救済を釈迦如来から委嘱されているのである。したがって地蔵信仰の起源をたどると古代インドに行きつき、地蔵とは「大地の子宮」、すなわち地母神が仏教に取り入れられて地蔵菩薩が誕生したとされる。 その地蔵信仰が日本に伝来したのは奈良時代であり、本格的に発達してくるのは平安時代中期以降、末法思想の広がりを背景に極楽浄土への往生を願う浄土教思想の下、造寺、造塔などの功徳を積めない庶民層に広がったのである。すなわち浄土の救主、阿弥陀如来に対する地獄の救済者、地蔵菩薩という図式が定着してきた。したがって地蔵菩薩は宗教集団としてよりも、個人的信仰の受け皿として誕生したのである。 長い濁世の後、この世に下生される弥勒菩薩の現世の化身が「布袋さん」と言われるように、平安初期の日本霊異記の説話によれば、地獄で放免の裁定を下した閻魔王と現世の「お地蔵さん」が一体化されている。また今昔物語では、現世と異界とを媒介する童子の姿として現世に化現している。以後「お地蔵さん」は子どもの守護者であると信じられ、少なくとも京都では江戸時代後期より子供中心の夏祭りとして地蔵盆の行事が行われ子孫の繁栄を願ってきた。その後「お地蔵さん」に様々な現世利益の願いを込めた霊名が付されるようになった。神道系の信仰が主に「集団としての地域社会」に関わったのに対して、仏教は「個人としての死者」に関わることで日本社会に浸透していった。本書は上記の民間地蔵信仰の研究のおわりに、阪神淡路大震災や東日本大震災によって命を奪われた犠牲者、とりわけ子どもの犠牲者を供養する「お地蔵さん」は、多くの遺族や被災者にやさしく微笑みながら、その悲しみを癒し、静かに励まし続けてくれるに違いないと結んでいる。
山岸秀夫(編集委員)
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