Books (環境と健康Vol.25
No. 1より)
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吉成直樹 著 琉球の成立−移住と交易の歴史 |
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(株)南方新社 ¥ 2,800 +税 |
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本書の著者は医学部中退後、理学部地学科を卒業した経歴の持ち主である。それだけに本書には人類学的、地理学的知見が豊富にみられる。琉球弧とは、沖縄島を中心とした南西諸島と琉球諸島の総称で、中国大陸との間に黒潮が流れて朝鮮半島や日本列島に北上している。本書は中国、朝鮮半島、日本との交易の中で成立した琉球弧の国の歴史を縄文時代にまでさかのぼって概観したものである。 近年の DNA 塩基配列解析の進歩は、およそ 10〜 20 万年前のアフリカにおける現生人類誕生の時期とその後の地球上への拡散の様相を復元しつつある。すなわち主に母親から子どもへと継承されるミトコンドリアDNA と父親から息子に継承される Y 染色体 DNA の分析技術の進歩によるものである。これら人類遺伝学的データと旧石器時代遺跡に残された先史文化や人骨の証拠から、本書では縄文人は東南アジアから北上してきた人々であり、弥生時代以降に中国東北部から南下してきた新石器時代人と混血しながら日本人の祖先が形成されたとのシナリオを立てている。2〜3 万年前の縄文時代は最終氷河期の寒冷化のピークの時期であり、インドネシア島嶼部から日本列島にかけては陸続きであったことを考えれば、海底遺跡を含め琉球弧に発見される縄文遺跡とよく整合する。そのうえ弥生時代から古代にかけて行われた貝交易の遺跡としての貝塚も発見されている。 琉球文化圏は、言語学的にも農耕文化の点からも南方文化圏の影響を強く受け、「ヤマト文化圏」とは異なった独自の文化を発達させてきた。古代に入ってからも大和王権に朝貢し、高麗と連携し、宗と交易し、以後近隣諸国と善隣友好を保ち、他国を脅かす兵力を持たない平和な海洋国家としての琉球国形成までの歴史が本書に描かれている。現在の沖縄の基地問題を考えるに当たり、この平和国家「琉球の成立」に思いを致したい。
山岸秀夫(編集委員)
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